一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

名文章ご紹介シリーズ【その6】~「臆病」がもたらす被害~

このコーナーは、山本七平の著作の中から、読んだ私が「うむ、なるほどっ」と感心した文章を選りすぐり、私の下手な解説抜きでご紹介しようというものです。

今回は、「臆病」について。
個人であれ国家であれ、虚勢を張ることは良い結果をもたらさないという事なんでしょうね。



負傷後、性格が一変したのではないかと思われる者もいる。しかし厳密にいうと、むしろ「生地」が出てきたのであろう。

私がほんの短期間小隊長であった自走砲中隊に、Oという曹長がいた。中国戦線に長く、いわゆる戦場ずれした下士官の悪しき典型のようた人物だった。チョビ髭をはやし、防暑帽をあみだにかぶってサングラスをかけていた。

(~中略~)

このサングラスの元祖の一人であるO曹長は、中隊長以下すべての人間を鼻であしらい、明けても暮れても戦功自慢で、兵隊が「話半分でも金鵄勲章を五つぐらいもっているはずだ」と陰で冷笑するほどであった。

もっともずっと後になってから、私は一度彼と口をきいただけなので、事実かどうか知らない。

その時まで口をきかなかった理由は私の方にもあったであろうが、彼にとっては「学生あがりの青二才で、実戦の経験もないくせに小生意気な新品少尉だ」といったわけで、わざと無視していたのであろう。彼はそういう態度を露骨に表わしていた。

彼は中隊から離れて、ジャングルの少し奥まった場所で、自走砲一門を指揮していたわけだが、禁令をおかして日中に自分の飯をたかせた。そのため炊煙目かけて爆撃され、戦死者を出し、自分も右膝に負傷した。

大した傷でなく、短期間に治ってびっこをひくだけであったし、部隊長から厳重に注意をうけたとはいえ正式に処罰されたわけでなかったのだが、以後、まるで人が変ったように、泣言ばかり言っているという話であった。

彼は足が悪いということで、オリオンヘの転進をまぬかれた。そしていよいよアパリ正面を撒収するとき、われわれについて来た。歩けない者は捨てて行く以外に方法がない。そのとき彼は歩けると言い張ってついて来たわけである。

行軍の途中、彼はまるでひとりごとのように「東海岸まで行きつけるじゃろうか」「潜水艦が救出に来てくれんじゃろうか」「どうなるんじゃろ、一体、どうなるんじゃろ」と言いつづけた。私は一度返事をしただけであった。

彼は元来、非常に気の小さい臆病な人であったと思う。臆病は罪悪でないし、それ自体は少しも非難さるべきことではあるまい。私自身、バズーカ弾らしきものが飛んでくれば膝がガクガクする人間である。

ただ臆病が裏返しの虚勢になり、強がりになり、恐怖や自信のなさを隠すための大言壮語や一方的な言いまくりや罵詈讒謗となると、確かに人びとを誤らせ、他に危害を与え、自らも傷つく

いわゆる愚連隊的人間が、戦場では一番臆病だという定説があるが、私の体験はほぼこれを裏づけてくれる。

そして鉄パイプをもってあばれるタイプもこれに入るであろう。だがこの場合も、それまでの「表われ方」と「実体」があまり違うので目につくわけであって、ほとんどの人間が、もちろん私も含めて、本来は臆病なものである。そしてそれが極めて自然である。

いわゆる「戦意高揚」記事は、O曹長の大言壮語と同じで、最も臆病な者が事実を見まいとして書き、また最も臆病なものが、事実を知るまいとして読むものであろう。

味方の損害を実数のまま平然と発表できない国は必ず大きな弱みをもち、その弱みに対して実に臆病になっているがゆえに悲壮調の壮語になるのであろう。

そして結局は、常にかわらず、この臆病なものが最大の損害をうけ、また最大の損害を周囲に与えるのである。


by山本七平

【引用元:私の中の日本軍(下)/戦場での「貸し」と「借り」/P197~】


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