一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

名文章ご紹介シリーズ【その7】~戦場には二種類の人間がいる~

このコーナーは、山本七平の著作の中から、読んだ私が「うむ、なるほどっ」と感心した文章を選りすぐり、私の下手な解説抜きでご紹介しようというものです。

今回は、戦場を見る人の違いについて。

山本七平は、著書の中で浅海特派員本多勝一について、痛烈に批判しているのですが、下記の引用を見れば、そのわけを窺うことができると思います。

殺されまいとして必死にあがいた経験があるからこそ、彼らを執拗に咎め続けた…のでしょうね。



私は、否、私だけでなく前線の兵士は、戦場の人間を二種類にわける。

その一つは戦場を殺す場所だと考えている人である。

三光作戦の藤田中将のように「戦争とは殲滅だ」といい、浅海特派員のように「戦場は百人斬り競争の場」だと書き、また本多氏のようにそれが、すなわち「殺人ゲーム」が戦場の事実だと主張する――この人びとは、いわば絶対安全の地帯から戦場を見ている人たちである。

だがもう一つの人びとにとっては、戦場は殺す場所ではなく、殺される場所であり、殲滅する場所でなく殲滅される場所なのである

その人びとはわれわれであり、前線の兵士たちである。

彼らにとって戦場とは「殺される場所」以外の何ものでもない。そして何とかして殺されまいと、必死になってあがく場所なのである。

ここに、前線の兵士に、敵味方を越えた不思議な共感がある

私たちがジャングルを出て、アメリカ軍に収容されたとき一番親切だったのは、昨日まで殺し合っていた最前線の兵士だった。

これは非常に不思議ともいえる経験で、後々まで収容所で語り合ったものである。

この時の情況も、また機会があれば詳しく語ろうと思うが、今ほんの一例をあげれば、私たちはまずアパリの海浜の天幕づくりの仮設収容所に運ばれたのだが、天幕に入ると同時に、物凄いスコールが来た。天幕の垂れ幕があがっているので、海からの風で横なぐりに降る豪雨は、遠慮なく天幕に吹き込んでくる。われわれが垂れ幕を下ろそうとすると、彼らはそれを押しとどめ、手まねで寝て休んでいろといって、豪雨の中で文字通りズブ濡れになりながら、垂れ幕を下ろし、杭を打ち、綱で結んで雨が入らぬようにしてくれた。

しかし、すべてにわたって、そういう扱いは最前線だけであった。

後方に移されるほどひどくなり、その年の暮のクリスマス前に歴戦の米兵はアメリカヘ帰り、全く戦場を知らない新兵が来ると、もう徹底的にいけなかった。

彼らにとっても、戦場は「殺す場所」であって「殺される場所」ではない――そしてそれは、いかに説明してもわからない。

そして、「そんなことわかっている」という人間が実は一番何もわかっていない

彼らがわかっているというとき、それは結局「殺される者がいるということでしょ、そんなことはわかっていますよ、気の毒ですね、戦争はいやですね」ということであっても、自分が殺される、殺されまいとしてあがく、それがどんな状態か、そのとき人間はどんな顔をするかは、それはわからない。

従って無神経に「殺される者の苦しみはワカッている、ワカッている」などと言う者がいると、兵士は逆にカッと激怒し、時には暴行さえ加える。

ところが暴行をうけた者はその理由が全くわからない。それほどこのギャップは埋めがたい


by山本七平

【引用元:私の中の日本軍(上)/軍人より軍人的な民間人/P183~】



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・名文章ご紹介シリーズ【その6】~「臆病」がもたらす被害~
・名文章ご紹介シリーズ【その8】~日本語では戦争はできない~
・名文章ご紹介シリーズ【その9】~百人斬りが通用する背景には~

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コメント

>mugiさん

コメントありがとうございます。

>民放『ブロードキャスター』でジョージ・フィールズさんが、「軍事隊体験のない者ほど、タカ派だ」と言っていたのを憶えています。日米共に、「軍人より軍人的な民間人」なのでしょうね。

どこでもそうなんですね。
こういうのを見ると、あながち軍事体験というものを体験するのも、却って「現実を知る」という意味で重要なことなのかも知れません(私自身知っているとは言えないので、言えた口ではありませんが)。

ちょっと話がずれちゃうかもしれませんが…

戦史家の秦郁彦氏が、太平洋戦争を、「プロは投げて、アマだけがハッスルしていた戦争」と表現していましたが、いずれの時代も無責任な外野とかアマチュアの意見がまかり通ると悲惨な事になってしまうのでしょう。

現在、ネット上では、威勢のいい論調がまかり通ってますが、こうした風潮は今も昔も代わりがないのかもしれませんね。これに流されないようにせねば…。

>仮)山田さん

コメントどうもです。

こうしたことは、確かに身近にも感じられますよね。

山田さんのご指摘の「当事者意識の欠如」とは、なるほどうまい表現だと思いました。

余談ですが、山本七平は、日本の問題は、なぜかこういう連中が主導権を握ってしまうことだと指摘していました。

「当事者意識を持つ」…非常に大切なことだと思います。

  • 2008/08/31(日) 12:26:25 |
  • URL |
  • 一知半解 #f2BEFQoE
  • [編集]

当事者意識の欠如

戦場のような特殊な状況を見るまでも無く、身近な喧嘩やビジネスでも似たような事は、多いですよ。
実際に対峙したり実害を受けない者ほど、やたらと煽ったり、勇ましい発言をしますからね。

  • 2008/08/31(日) 01:05:32 |
  • URL |
  • 仮)山田二郎 #-
  • [編集]

「殺される場所」

兵士にとって戦線が「殺される場所」とは、衝撃的でした。とても重い表現です。
最前線で戦った兵士でなければ、戦場のことは分りませんよね。それを安易に、「そんなことわかっている」と知ったかぶりの評論屋くらい、唾棄すべき輩もありません。
『日本人とユダヤ人』にも興味深い箇所がありました。「偽物ほど自分こそ本物だと声高に主張し、本物らしく一心不乱に振舞わねばならない」。これはネットでも同じことが言えます。ネットなど、学歴、経歴詐称する者の楽園でもあり、その手の嘘つきほど、声高に教育者と叫ぶ。

数年以上も前だと思いますが、民放『ブロードキャスター』でジョージ・フィールズさんが、「軍事隊体験のない者ほど、タカ派だ」と言っていたのを憶えています。日米共に、「軍人より軍人的な民間人」なのでしょうね。

  • 2008/08/29(金) 21:44:55 |
  • URL |
  • mugi #xsUmrm7U
  • [編集]

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昨日京都からの帰りの電車での事。 向かいに80歳は超えておられるだろうと思われる、かなりご高齢と見える男性が座られました。 その方が戦時中の事を話始められました。 戦争に4年ほど行っていたと言われるので、戦後64年だから少なくとも・・・・と計算しても、4

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一知半解なるがゆえに、自らの言葉で恥を晒すのを控え、主に山本七平の言葉を借用しつつ書き綴ってゆきたいと思ふのでアリマス。宜しくメカドック!!
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