一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

名文章ご紹介シリーズ【その9】~百人斬りが通用する背景には~

このコーナーは、山本七平の著作の中から、読んだ私が「うむ、なるほどっ」と感心した文章を選りすぐり、私の下手な解説抜きでご紹介しようというものです。

今回は、誤訳や一方的断定がもたらす影響について。

誤訳や一方的断定というのは、大変な誤解を招きかねないものだ…ということなんですが、我々は普段あまりその危険性を認識していないような気がします。



今でも「叩く」とか「斬る」とかいう表現は使われている。

しかし「叩く」と言っても、本当に叩くわけでなく、また「創価学会を斬る」といっても、本当に斬り込むわけではあるまい。これらは一種の慣用的誇大表現であろうが、陸軍にもこれと全く同質のことがあり、それが戦後、ひどく誤解されている面も確かにあると思う。

その好例は「斬込隊」であろう――もちろん他にも多いと思うが……。

私はサンホセ盆地の入口のビタグの隘路へ派遣された斬込隊の第二線隊長であったが、私が斬込隊に出たといっただけで、知らない人はすぐ「ヘエー、山本さんが!ヘエー、で何人斬った?」と反問するのである。

反問する人はもちろん、私が敵陣へおどり込んで「百人斬り」でもやったのかと思うらしいが、私の知る限りでは、斬込隊とはいわば「斬る」「叩く」的な表現の言葉で、その実態は「戦車・重火器破壊班」とでも名づくべきものなのである。

近代戦とは兵器の戦いだから、目標は「人」でなく「重火器」である。

極端な例をあげれば、だれにでもわかることだが、戦艦は沈めればそれでよく、B29は落せばそれでよいのであって、搭乗員の生死は、実は問題外なのである。

日本刀を背負って泳いでいって舷側をよじのぼって水兵一人斬ったところで近代戦では無意味だが、一方、艦底に爆薬を仕掛けてこれを沈めれば、その際、乗員の全部が無事に逃れて助かっても、大戦果となるわけである。

陸上の戦闘でも、原則は同じで、斬込隊が持っていくのは、われわれの場合は「フトン爆雷」という自殺兵器であった。下士官一・兵二の三人一組を三組、計九名、指揮官の将校一で総計十名が一編成である。

フトン爆雷というのは、ダイナマイト四キロをゴムの袋に入れ、それをドンゴロスの二重袋に入れたもので、ちょうど椅子用の座ぶとんと同じ形をしている。フトン爆雷の名称はそれから出たのだと思う。

これに「一式点火管」という点火器がついていて、その紐をひくと四秒で炸裂する。戦車の上にのせれば、その鋼板を完全に打ち抜く威力があった。炸裂までの四秒間に逃げてくれば助かるわけだが、これは実質的に不可能である。従って自殺兵器にならざるを得ない。

これをもって飛び込むのが斬込隊で、日本刀を振って斬りかかるわけではない。それがいつのまにか、斬込隊という名称から、日本刀をふるって敵陣に斬り込んだような錯覚を多くの人びとに抱かせているのではないであろうか

そして「百人斬り競争」や「殺人ゲーム」が今なお事実として通るには、こういった表現上の誤りやそれに基づく誤解や一方的断定が相互に作用しあっているからであろうか。

というのは、過日ちょっと「朝日新聞」の「天声人語」を見たところ、ヴェトナムのアメリカ軍が「殺す」といわず「駆除する」「処分する」という言葉を使っていると非難している文章が目に入った。これはおそらく誤訳から来た誤解、もしくはそれに基づく一方的断定であろう。

そして「駆除」は、軍隊語の「排除」のことではないかと思う(原文が記載されていないので確言はできないが)。

もしそうなら、この「排除」すなわち「前面の敵を排除し……」とか「所在の敵の抵抗を排除し……」といった言葉は、おそらく世界に共通する軍隊語で、北ヴェトナム軍も同じ言葉を使っているのではないかと思うが、この言葉は「殺す」とは意味が違うのである。

軍隊には元来「殺せ」という命令はない――そして「ない」が故に、戦争ほど悲惨なものはないのである。

あれだけ苦しい戦争を体験しながら、このことが、どうして理解できないのであろうか。

そして、こういう誤訳や誤解や慣用的表現の誤った受けとり方などが一方的断定と結合してしまうことが、虚報が今なお事実で通用する素地になっているのではないであろうか?


by山本七平

【引用元:私の中の日本軍(下)/日本刀神話の実態/P100~】



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