一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

ある異常体験者の偏見【その1】~日本を破滅に追い込んだ「思考図式」~

今までも、何度か引用したことのある山本七平の本「ある異常体験者の偏見」ですが、今後シリーズで紹介して行こうと思います。

今まで私が読んだ彼の著作の中では、この本が一番とっつきやすいというか、非常に噛み砕いて説明しているんじゃないかと。

この本は、なぜ日本が無謀な戦争に突入していったのかという理由について、様々な角度から分析しているのですが、比較的平易な説明でわかりやすいと思うのでお勧めです。では、早速引用開始していきましょう。

ある異常体験者の偏見 (文春文庫)ある異常体験者の偏見 (文春文庫)
(1988/08)
山本 七平

商品詳細を見る


■ある異常体験者の偏見

ときどき「山本さんは戦争中のことをよく億えていますね」といわれるが、こういうことは、形を変えてみれば、だれでも同じだということに気づかれるであろう。

たとえば航空機事故である。

ニュースとしてこれを聞いた人はすぐ忘れるであろうが、本当に落ちて、全員死亡した中で奇跡的に助かったという人は、そのことを一生忘れ得ないのが普通である。

それは、「思い出すだに身の毛がよだつ」という体験で、本人にとっては何とかして忘れたいことにすぎない。

「戦争体験を忘れるな」という人がいるが、こう言える人は幸福な人、私などは逆で、何とかして忘れたい、ただただ忘れたいの一心であったし、今もそれは変らない。

こういう体験者には、必ず一種の「偏見」があると思う。

確かに「飛行機はそう落ちるもんじゃありませんよ」という言葉は事実であろうが、それは航空機事故の体験者には簡単には通じないし、また「落ちた」ことも確かに事実で、また「将来、落ちる」ことも事実なのである。

大日本帝国号」という飛行機は確かに二十八年前に墜落し、何百万という犠牲者を出しただけでなく、周囲一帯に恐るべき損害を与えた。

一体なぜ落ちた

二月号の『諸君!』を読むと、一航空機の墜落事故すら、さまざまな要因が重なりあって、簡単に解明できない場合がある。

まして「大日本帝国号」ともなれば、無限といってよいほどの要因が重なりあっているであろう。

しかし本当に将来二度と墜落すまいと思うのなら、この要因の一つ一つを洗い出して検討していく以外には方法がないと私は思う。

私は、「臨時雇い」であったとはいえ、最末端の乗務員の一人であって、旅客ではない。

もちろん何の権限もないが、しかし乗務員室に入っていてその運航法を見ている。

そしてそばで見ていて、また何かやらされて、たえず「おかしい、おかしい、これはどう考えてもおかしい」「何か基本的な発想、または思考の図式に根本的な誤りがあるのではないか」「このまま行ったら墜落しないはずはないが……」と思いつづけていたことも確かにある。

従って、私が、人が何とも思わない言葉や文章の中に、そのとき感じたと同じことを感じて一種のショックを覚えても、それは私自身にも防ぎようのないショックである。

従ってそれらの言葉や文章について私が何か書いたら、当然その人からの反論もあると思う。

私が、体験者には必ず「偏見」がある、といった「偏見」の意味は、このショックのことである。

最近一種のショックを覚えたのが『文藝春秋』十一月号の『森氏の批判に答える』という新井宝雄氏の一文(ニ八五ページ参照)であった。もちろん私は中国については何も知らない。

ただ瞬間的に変な気持になってくるのが、新井氏の発想と一種の思考図式とそれに基づく一方的断定ともいえる一種の「軍人的断言法」なのである。

次にその一例を掲げる。

……強大な武器を持っていた日本がなぜ中国に敗れたのか。それは偶然に負けたのではなく、負けるべくして負けたのである。

それは、なかば、植民地化された中国を、独立した近代国家にしたいという中国の民衆のもえたぎるエネルギー、いいかえれば反帝・反封建の道を進んできた中国革命の力量によって負かされたのである。


お断りしておくが、以下は異常体験の体験者の偏見として読んでいただいてかまわない。

即座に感ずることは、少し表現を変えれば、これはわれわれが絶えず言われていたことだ、そして言い方が同じだ、ということ。

第二が、この発想と思考図式がわれわれを死ぬほど苦しめ、ついに多くの人を殺したのだ、ということ。

第三に、この考え方が日本を破滅させたのだ、ということ。

第四に、過去の図式をそのまま裏返しにして日中関係にあてはめているにすぎないのではないか、従って基本的発想と思考の図式そのものは、あの時代の軍部と少しも変っていないのではないか

と言ったようなことが渾然一体となって一種の衝撃となるだけでなく、いわば砲兵隊本部の「走り使い」をしていて、文字通り命がけで争わねばならなかった相手は、実はこの思考図式であり、「変だ変だ」と思いつづけていたのもこれであったという、実に苦々しい思い出がよみがえってくるのである。

確かにこれは、墜落体験者の偏見かも知れぬ。

それならそれでよい、ただ以下に、ではなぜそういう偏見を持たざるを得なくなったかを詳述しようと思う。

これは確かに「大日本帝国号」の墜落の一因と私は思うからである。

(次回につづく)

【引用元:ある異常体験者の偏見/ある異常体験者の偏見/P7~】


山本七平が引用した新井宝雄氏の文章を、仮に予備知識なしに私が読んだとしたら、「何か随分と断定的で、抽象的だなぁ」…と思う程度で何の違和感も抱かないし、するすると読み流してしまうでしょう。

その文章のなかに、日本を破滅においやった「思考図式」が表れているとは到底想像し得ない。

それに気付くことができるのは、山本七平の感受性・分析力の「鋭さ」なんでしょうが、そうはいっても、やはり命からがらフィリピンのジャングルから生還した「異常」体験があったればこそ、なのでしょうね。

この本を読んでつくづく考えされられたのは、日本を破滅に追い込んだのは、決して「一握りの軍部」でもなければ「天皇制」ではなく、山本七平がこの本を通じて暴いた「思考図式」そのものであるということです。

ならば、自らが”無意識的に拘束”されているこの「思考図式」というものについて、意識的に再把握し、そうした「思考図式」がもたらす「欠点」について省みることが必要ではないか。
そして、それこそが「反省」するということなのではないか、と思うのです。

それでは次回から、なぜ負けるとわかっていて開戦したのか、について山本七平の記述を紹介していきます。
ではまた。

【関連記事】
◆ある異常体験者の偏見【その2】~二通りある「負けるべくして負けた日本」~
◆ある異常体験者の偏見【その3】~戦争を引き起こす『確定要素』対『不確定要素』という構図~
◆ある異常体験者の偏見【その4】~砲兵が予告した「冷戦時代」の到来~
◆ある異常体験者の偏見【その5】~「精神力」対「武器」という発想→「地獄の責め苦」~
◆ある異常体験者の偏見【その6】~「確定要素」だけでは戦争できない日本~


FC2ブログランキングにコソーリと参加中!

「ポチっとな」プリーズ!
Twitter「つぶやく」ボタン
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:軍事・平和 - ジャンル:政治・経済

このページのトップへ

コメント

田母神さんたちが「言論のチカラ」で国を変えていくことが大切だと説いている
これはオレたちネットレジスタンスへの叱咤激励に違いない
「言論のチカラ」こそオレたちネットを中心に活動する戦士たちの一番の武器なんだ
このスレのひとり一人がもっと自分の武器を磨いていくことが肝心だ

  • 2010/06/22(火) 17:49:31 |
  • URL |
  • yuich #GK6dE4c.
  • [編集]

いいか、みんな
決してあきらめるなよ
日本と日本国民はオレたちで守り抜くんだ
幸いにしてオレたちには最強の武器(PC)と尽きることのない銃弾(レス)がある
そして共に闘うこのスレの仲間たちがいる
敵がどんなに強大でも決して負けるはずがない!
渾身の思いを込めて銃弾(レス)を撃ち続けろ!

  • 2010/06/21(月) 17:34:01 |
  • URL |
  • yuich #VOju4AxI
  • [編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://yamamoto8hei.blog37.fc2.com/tb.php/163-305a88a7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
このページのトップへ

FC2Ad

プロフィール

一知半解

Author:一知半解
「一知半解知らずに劣れり」な自分ではありますが、「物言わぬは腹ふくるるわざなり」…と、かの兼好法師も仰っておりますので、ワタクシもブログでコソーリとモノ申します。
一知半解なるがゆえに、自らの言葉で恥を晒すのを控え、主に山本七平の言葉を借用しつつ書き綴ってゆきたいと思ふのでアリマス。宜しくメカドック!!
日々のツイートを集めた別館「一知半解なれども一筆言上」~半可通のひとり言~↓もよろしゅう。

http://yamamoto7hei.blog.fc2.com/

★★コメント欄運営方針★★
・基本的にどんなコメント(管理人批判も含め)でも一度は公開します。
・事前承認制ではありませんので、投稿するとすぐ表示されてしまいます。投稿前に、内容の再確認をお願いします。
・エロコメント及び勧誘サイトへ誘導するようなコメントは気付き次第、削除します。
・管理人宛てのコメントには、出来る限り対応していきたいと思います。ただ、あまりにも多連投コメント及び悪質・粘質なコメントは放置する場合があります。
・管理人はコメント欄の運営については自由放任という立場です。当面は、たとえ議論が荒れてしまっても不介入の方針でいきます。議論はとことんやっていただいてかまいませんが、できるだけ節度やマナーを保って議論していただきたいと”切に”希望します。
・本人よりコメント削除要求があり、管理人から見て、明らかに事実無根の中傷・名誉毀損と判断した場合は警告の上、当該コメントを削除することがあります。

FC2ブログランキングにコソーリ参加中
「ポチっとな!」please!

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

カレンダー

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

FC2カウンター

QRコード

QR

一知半解宛メール箱

私、一知半解まで個人的にメールを送りたい方はこちらのメールフォームをご利用ください。

名前:
メール:
件名:
本文:

バロメーター

Twitter on FC2

ブログ内検索

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する