一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

感情国家・日本【その3】~戦前の日本は軍国主義以下~

日本人と中国人―なぜ、あの国とまともに付き合えないのか (Non select)日本人と中国人―なぜ、あの国とまともに付き合えないのか (Non select)
(2005/01)
イザヤ・ベンダサン

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前回【その1】【その2】のつづき。

前回はトラウトマン和平工作について紹介しましたが、日本が自ら依頼した和平工作を自ら蹴ったことが、当時の世界にどのように映ったかについてベンダサンの記述を引用していきます。

前回のつづき)

■世界が首をひねった日本の戦争

ここまでの日本の行動は一応だれにでも理解できる。
もちろん理解できるということは、その行動を是認できるということではない。

簡単にいえば、泥棒が押し入って来て金を出せといった、金を出したらそれを受け取って泥棒は去って行ったのなら、この行動は一応理解できる。

同じように日本軍が押し入って来て「満州国承認を出せ」といった、そこで中国政府がそれを出したら、日本軍はそれを受け取って去って行った、というのなら、その行動は一応理解できるという意味である。

ところが、金を出せというから金を出したところが、相手はいきなりその金を払いのけておどりかかってきたら、この行為はもう「泥棒」とはいえない

さらにそこに坐り込んで動かなかったら、これはもう「泥棒」という概念では律しきれない行為で「狂人」とでも規定する以外にない

従って彼の行為を泥棒と規定しうるのは、相手が「金を差し出した」時までである。ここで泥棒という行為は終わったはずである。

私が、「だれが考えても、これで戦争は終わった」というのはその意味である。
従ってここまでは「戦争」として理解できる、というのはその意味である。

日本は百パーセント目的を達した。一番の難問題はどうやら片づきそうであった。

中国が満州国を承認すれば、全世界の国々の「満州国承認のなだれ現象」が期待できるであろう。
事実、中国政府が承認したのに、非承認を固持することは意味がない。

「シレジア領有確認戦争」と同じように、これで「満州領有確認戦争」は日本の一方的な勝利で終わったわけであった。

何よりも満足したのはナチス・ドイツ政府であったろう。

これで蒋介石軍の崩壊は防がれ、日蒋同盟が中ソ国境の脅威となり、ドイツの東方政策はやりやすくなる。

さらに日本の満州領有の列強の確認によるその安定化は、新しい重機械の輸出市場の育成という面でも、彼らにとって大変に魅力あることであった。

満州大豆と重機械の取引は、彼らにとって余程うまみのある商売だったらしく、それから半世紀もたっているのに、エアハルトが訪日の際、ふとこのことを口にしている。

その言葉の奥に「当時のあれはよかった」という感情が見えている。
当時おそらく彼らは、日中停戦後の計画、主として経済計画を練るのに忙しかったであろう。

だがここに、全く、想像に絶する事件が起こった。

ポツダム宣言を受諾する」といったところが、そのとたんに九十九里浜に米軍の大軍が上陸して東京になだれ込んだといった事件である。

一体全体これを、どう解釈すれば良いのであろうか。

この最も不思議な点については、今回の「田中訪中」の前に、日本の新聞・雑誌その他がもう十分に論じつくしていると思っていたのだが。……まあ、参考までに私見をのべておきたい。

この驚くべき背信行為の複雑怪奇さは到底「独ソ不可侵条約」の比ではない。
独ソ不可侵条約」を複雑怪奇というなら、これは一体何と表現したら良いのであろうか。

狂気であろうか。

さまざまな解釈は、すべて私に納得できない。
十二月八日に日本は中国が日本の提案を受諾したことを確認した。

しかし日本側は軍事行動を止めない。
それのみか十二月十日、南京城総攻撃を開始した。なぜか?

通常こういう場合の解釈は二つしかない。

一つは、日本政府が何らかの必要から、中国政府をも、トラウトマン大使をも欺いたという解釈である。

これは大体、当時の世界の印象で、これがいわゆる「南京事件報道」の心理的背景であり、また確かにそういう印象を受けても不思議ではない(というのは、ほかに解釈の方法がないから)が、どう考えてもこの解釈は成り立たないのである。

もし「欺かねばならぬ側」があるとすれば、それはむしろ中国政府で、「日本の提案を受諾します」と言って相手の進撃をとどめ、その間に軍の再建整備を計った上で、相手に反対提案をし、それを受けつけねば反撃に出る、というのなら、これも一応理解はできる。

日本側が欺いたとすると、昭和十年十月七日の三提案がすでに詐術であり、トラウトマン和平工作なるものも、実は、何らかの隠された目的のための詐術だということになり、トラウトマンもナチス・ドイツ政府も、日本政府に踊らされていた、ということになるが、この解釈はあらゆる面から見て無理である。

さらにもしそうなら、後から振り返って見れば「なるほど、日本はああいう意図を秘めていたのか」という思い当たる節が必ずあるはずなのだが、これが皆無である。

結局、当時の世界の、この事件へのやや感情的な結論は「日本人は好戦民族なのだ」ということであった。

これに対する日本人の反論は、常に「歴史上、日本人ほど戦争しなかった民族はない、だからそうは言えない」ということであった。

しかしこれは反論にならない

戦争は通常、だれでもある程度は理解できる理由がある。

もちろんその理由は「泥棒にも三分の理」に等しい理由で、理由がわかったからといってその行動が是認できるということではないが、少なくとも、理由がわかれば、たとえそれがその場限りの理由にせよ、その理由を除く方法を相互に探究できる。

だが理由が全くわからないと「彼らは、戦争が好きだから戦争をやっているのだ」としか考え得なくなるのである

従ってこれへの反論では、まず南京総攻撃、およびそれ以後の戦闘の理由を説明しなければならない。

それができないのならば、「戦争が好きで、これを道楽として、たしなんでいたのだ」という批評は、甘受せねばならない

しかしこういう行為は、通常の意味の「戦争」の概念には入らないと私は思う。


■戦前の日本は、「軍国主義」以下

最近は余り聞かれなくなったが、いわゆる日本における「軍国主義復活論」に、私は一種の不審感をもっている。

戦前の日本に、はたして軍国主義があったのであろうか

少なくとも軍国主義者は、軍事力しか信じないから、彼我の軍事力への冷静な判断と緻密な計算があるはずである。

確かにナチス・ドイツは、ソビエトの軍事力への判断と計算を誤った。
しかし計算を誤ったことは、計算がなかったことではない。

ある意味ではスターリンもすぐれた軍国主義者であった。「法王は何個師団もっていますか」という彼の言葉は、思想の力を全然信ぜず、軍事力だけを信していた彼を示している。

日本はどうであったか。

中国の軍事力を正確に計算したであろうか。
そして正確に計算したつもりで誤算をしたのであろうか。
一体、自らが何個師団を動員して、それを何年持ちこたえうると計算していたのであろうか。

米・英・中・ソの動員力と、自らの動員力の単純な比較計算すら、やったことがないのではないか。
私の調べた限りでは、こういう計算は、はじめから全く無いのである。

否、南京攻略直後の情勢への見通しすら何一つないのである。
否、何のために南京を総攻撃するかという理由すら、だれ一人として、明確に意識していないのである。

これが軍国主義といえるであろうか。いえない

それは軍国主義以下だともいいうる何か別のものである。

恐ろしいものは、実はこの「何か」なのである

(~次回に続く)


日本は軍国主義以下という評価は、概ね妥当な評価だと思います。
当時の日本の行動は、とても軍国主義者の冷徹な計算に基づく行動ではなく、突発事件に対する感情的な反発を基にした「行き当たりばったりの反応」に過ぎなかった印象がぬぐえません。

引用文中に、「私の調べた限りでは、こういう計算は、はじめから全く無い」という記述がありますが、これはいささか誤解を招く表現かもしれないので、私なりの解釈を述べておきます。

もちろん、当時の日本にも冷徹な計算を行なった人間はいたはずです。
ただ、そうした専門家の意見というのが、全く聞き入られなかった。そういう意味で「計算がなかった」という評価になるのだと考えます。

次回は、そうした行動の基になった「感情」についてベンダサンの記述を紹介していこうと思います。

【関連記事】
・感情国家・日本【その1】~日支事変は世界にどのように受け止められたか~
・感情国家・日本【その2】~トラウトマン和平工作はなぜ成功しなかったのか~


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一知半解なるがゆえに、自らの言葉で恥を晒すのを控え、主に山本七平の言葉を借用しつつ書き綴ってゆきたいと思ふのでアリマス。宜しくメカドック!!
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