一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

平和主義の欺瞞【その3】~現実を直視しなければ不可逆的に失敗する~

前回「平和主義の欺瞞【その2】~自己欺瞞によりますます卑屈になる日本~」と前々回「平和主義の欺瞞【その1】~日本人の平和主義は「強姦された女の論理」~」にわたって日本とアメリカの関係について、岸田秀の精神分析に基づき、何が問題なのかを紹介してきましたが、今回は、それでは日本は一体どう対処したらよいのか?
そのことについて、岸田秀の記述を紹介していきたいと思います。

日本がアメリカを赦す日日本がアメリカを赦す日
(2001/02)
岸田 秀

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◆服従の作法

アメリカに対して日本はそのような無意味な反抗、反発をときどきやりますねえ。
安保騒動なんかがそうでしたね。

あの騒ぎは僕に言わせればまったく無意味でしたよ。
あれはアメリカから見れば反米暴動に他ならなかったでしょう。

やってる日本人も、動機は明らかに反米でした。
しかし、反米という意識がありましたかねえ。

平和のためとか民主主義のためとかのスローガンを掲げていましたから。
騒動が終わってみると、津波が引いたように、あとに何も残りませんでした。

屈辱的状態にあるのを認識するのは苦痛だ、というのはわかりますがねえ。
しかし、現実というのは、苦痛なことがいっぱいあるわけですよ、個人の場合だって、屈辱的なことをいっぱい経験するじやないですか。

それに耐えて、現実を見失わず、屈辱的状態を解決する現実的で有効な道を進んでいくか、あるいは、現実を見ずに苦痛から逃げて、気分的なごまかしと偽りのブライドと表面的な安心感に縋って、非現実的で愚かな道を進むか。

個人でも国でも、どっちかしかないのではないでしょうか。

現実を見ないとどうなるかというのは、非常に単純なことですよ。

何度も繰り返しますが、日本軍の作戦なんて、現実を見てなかったから失敗したわけです。都合の悪い現実を無視して作戦を立てるから、どれほど必勝の信念をもとうが、死を恐れぬ勇気をもとうが、身を犠牲にして戦おうが、不可避的に負けます

現実を見るか見ないか、その差が現実の結果を決定します

国家にしろ個人にしろ、同じことです。

神経症も、幼いときの親子関係とか、自分に関する苦痛な都合の悪い現実を見ないから起こるのです。

これまで見ていなかった現実を見さえすれば、神経症は基本的に治ります。
非常に単純なことですよ。

その場合、神経症が治ったからといって、天にも昇るような素晴らしい気分で人生が送れるようになるわけではありません。

いやな現実を見るわけだから、前より不幸になるかもしれません。

しかし、生きるということは、現実を見て現実に生きることだと思います。
現実を見るというのは単純なことです。

しかし、それができなければ、国も個人も、長い目では必ず失敗します

日本の場合、屈辱的現実をごまかさずに認識した上で、結果として、いまと同じ、アメリカの子分として生きる道を選択することだってあり得ると思います。

独立を唯一絶対の目標にすることはありません。
軍事的にも経済的にもアメリカから独立するとなれば、いろいろそれなりのデメリットがあるでしょう。

いまより貧乏になるかもしれません。
いまのような経済的に豊かな生活を第一に守りたいというなら、このままの道を選択することもあり得ます。

また、日本国民が、軍事的にアメリカに依存しているほうが日本にとって有利だと、ゆっくり考えた上で結論するのなら、それでもいいと思います。必ずしも反対ではないですよ。

しかし、その場合は、屈辱感をごまかさず、引き受けなければなりません

イコール・パートナーなんて言わないことです。

この道を選べば、日米関係においては何に関しても親分・アメリカの都合が優先されるでしょう。
アメリカ軍の兵士に日本の女の子がときどき強姦されるのも必要経費みたいなものかもしれません。

場合によってはアメリカから一方的に捨てられる可能性もあります。
不安な関係でアメリカに依存しつづけることになります。

親分ってのは、なんたって勝手だからね。子分が望むほど気を遣ってくれることはありません。

その不都合にも、不安にも、屈辱感という苦痛にも、耐えていかねばなりません。

それでもいい、そういうデメリットもアメリカの子分であることのメリットと比べれば大したことはないし、それに耐えていけるということであれば、それも一つの道です。

世界の歴史においては、右や左の大国に翻弄され、そのご機嫌を取りながら、そして踏みにじられながら、何とか生き抜いてきている小国もたくさんあります。

航海・航空技術が未発達だった昔には、日本海と太平洋に守られていた日本も、現代はそうもゆかなくなり、そうした小国の仲間入りをしたと考えればいいでしょう。

それに、現実の諸条件を考えて、子分であることを選んだとしても、アメリカに絶対的・盲目的に服従しなければならないということはありません。

子分は子分である限り、親分の言うことを全部聞かなければならないというのは、日本人的発想かもしれないですね。

親分子分関係を情緒的な信義、忠節、献身の関係のように捉える発想は欧米にはないでしょう。

親分子分関係といっても、一種の取引関係、契約関係ですから。

弱い国は弱い国なりに主張すべきことは主張すべきだし、強い国に生殺与奪の権を握られているわけではありません。

子分としての権利と義務の範囲をわきまえて、アメリカを納得させてそれなりにやっていけばいいわけです。

しかし、アメリカの子分であることは屈辱であり、個人と同じく国家も誇りを大切にすべきだと考えるのであれば、かつてのように腹を立てて突如、真珠湾を奇襲するのではなく、アメリカの子分でなくなることのデメリットを冷静に計算した上で、そうしたらいいでしょう。

アメリカに対抗できるほどの軍事力をもたなければ、アメリカから独立できないわけでもないのですから。

その場合は、日本が屈辱的な被占領状態であることをアメリカに認識させ、そこから脱出したいという意思を表明して、アメリカとの間で話し合いを始めればいいと思います。

アメリカだって、鬼でもなければ蛇でもないのですから、日本から言い出せば、全然相手にしないということはないでしょう。

アメリカは、日本が屈辱的な被占領状態にあることを、当然、知っていると思いますが、日本がこの事実から目を逸らしていて、文句を言わずに屈辱的状態に黙って甘んじているのだから、別にアメリカのほうから、これでいいんですか、と気を回すことはない、このまま子分扱いしていればいいと思っているんじやないでしょうか。

親分のほうから親分をやめたいと申し出ることはまずないんで、子分の身分から脱出したければ、子分自身がなんとかしなければね。

日本が不満な屈辱的現実を認識し、それを解決する方向に動き始めれば、アメリカが、そんな現実はないよと頭から否定することはないと思いますよ。

子分でいるのも、独立するのも、それが現実を冷静に認識した上でのものなら、どちらを選択したっていいんですよ。

いずれにせよ、事実上はアメリカの属国なのに、対等だと思い込もうとしたり、アメリカなんかやっつけられると誇大妄想に陥ったりするのだけは避けなければなりません

日本の国益を第一に考えればいいんで、親米か反米か、なんてレベルで考えるのは間違いです。

日本はふらふら、ぐらぐらしているからダメなんだ、もっとしっかりしなければと、ことあるごとに繰り返されますが、首尾一貫、毅然として確固たる所信を貫けと言われても、そういうことは、「今日から毅然とするぞ!」と決心すればできるというものではなく、そうできるためには、言ってみれば人格の統一が必要です。

精神の意識面と無意識面とが一方がこっちを向き、他方はあっちを向いて分裂しているような状態では、それはそもそも不可能です

人格の統一のためには、外的自己内的自己とをともに認識して、意識的人格に組み込む必要があります

現実に存在する自分のある面を、変だとか、とんでもないとか、けしからんとかで否認している限りは、人格の統一は絶望です。

【引用元:日本がアメリカを赦す日/第三章 ストックホルム症候群/P77~】


対処法といっても、特に難しいものではないんですね。
現実を直視すればよいだけなのですが、それは必ずしも幸せな状態をもたらさないかもしれない。
当然、不安に駆られるし、屈辱感にもさいなまれる。

しかし、それに耐えることが必要なんですね。日本が生き延びていく為には。

右でも左でも極端なことを主張する人は、まず、この課題について認識する必要があるのではないでしょうか。
これが、(私もそうですが)簡単そうでなかなか出来ないんですよね。


【関連記事】
・平和主義の欺瞞【その1】~日本人の平和主義は「強姦された女の論理」~
・平和主義の欺瞞【その2】~自己欺瞞によりますます卑屈になる日本~
・「ニセ物に固執する精神」~憲法改正がタブー視される理由とは~


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コメント

1読者さんへ

1読者さん、コメントありがとうございます。
阿比留氏のブログの件、教えてくださりありがとうございました。早速コメント&トラバして、拙ブログの記事を宣伝してしまいました(汗)。

>岸田氏の本を読むといつも感じるのは、「この発想は幼少期に終戦を迎え時代の激動を経験した人のものだなぁ」と少なからぬ違和感とともに感じることがあります。

そうでしたか。
私などは、単純で読みが浅いせいか、そのような違和感を感じ取ることができません(涙)。
もちろん、当事者ならではの受け止め方というのは、当事者でない世代と違うのはあるとは思いますが。

司馬遼太郎の言葉のご紹介、ありがとうございます。
司馬遼太郎は、昭和史を語ることを自己規制していたのでしょうか?あまり彼の体験談を読んだことがないのでちょっとわかりませんが。

  • 2009/06/15(月) 00:31:24 |
  • URL |
  • 一知半解 #f2BEFQoE
  • [編集]

 どのエントリーにコメントするか迷ったのですが、とりあえずここでお知らせします。

 すでにご存知かもしれませんが、最近の阿比留さんのブログ「国を憂い、われとわが身を甘やかすの記」で、岸田氏の著作「官僚病から日本を救うために」と山本氏との対談本が、立て続けに紹介されていますね。
http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/1074670/
http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/1083275/

 阿比留さんとは世代が非常に近いせいか、岸田氏の著作を読んでいた時期も上記の著作「官僚病から日本を救うために」を読んでいなかった点も一緒で少々驚きましたが、実は、いま一知半解さんが紹介している「日本がアメリカを赦す日」も(書店でザッと立ち読みした記憶はありますが)購入してはいないので、今回の一連のシリーズを大変興味深く拝読しています。

 なお、今回のエントリーに関連した簡単な感想を述べておきたいと思います。

 世代論というのは膨大な例外があるのであまり意味がないかもしれませんが、岸田氏の本を読むといつも感じるのは、「この発想は幼少期に終戦を迎え時代の激動を経験した人のものだなぁ」と少なからぬ違和感とともに感じることがあります。

 山本氏等の世代に対しても、「彼等は倒産寸前の会社に入社した新入社員のようなもので、大変な思いはしただろうが、彼等の視点では当時の経営環境や経営者の判断の詳細までは分からないだろう」という指摘があり、最初は反発を感じていましたが、最近は「なるほど。そういう面も考慮する必要がある」ということが少しだけ分かってきました。『経営環境や経営者の判断』を考えるということ、イコール歴史的に考えるということなのかもしれませんね。

 司馬遼太郎氏が、先の大戦を含む昭和前半について、「この時代は私にとって歴史ではない。したがって、歴史的に語ることはできない」と言っていたことを思い出します。

  • 2009/06/14(日) 18:14:23 |
  • URL |
  • 1読者 #-
  • [編集]

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「一知半解知らずに劣れり」な自分ではありますが、「物言わぬは腹ふくるるわざなり」…と、かの兼好法師も仰っておりますので、ワタクシもブログでコソーリとモノ申します。
一知半解なるがゆえに、自らの言葉で恥を晒すのを控え、主に山本七平の言葉を借用しつつ書き綴ってゆきたいと思ふのでアリマス。宜しくメカドック!!
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