一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

平和主義の欺瞞【その4】~押しつけられた平和主義は平和の敵~

前回までの「平和主義の欺瞞」シリーズは、主に戦後日本が陥った「自己欺瞞」状態についてわかりやすく分析し、その「自己欺瞞」がどうしていけないのかについて、岸田秀の主張を紹介してまいりました。

今回以降は、そうした「自己欺瞞」がもたらした事象について、岸田秀が語っている部分を引用していきたいと思います。

日本がアメリカを赦す日日本がアメリカを赦す日
(2001/02)
岸田 秀

商品詳細を見る


◆第5章 平和主義の欺瞞

戦争に負け、多くの日本人がそのために命を捧げた大日本帝国は解体され、敗戦後の日本は平和主義国家ということになりました。

連合軍総司令官、マッカーサー元帥がやってきて、日本は東洋のスイスたれ、ということを言いましたね。

言うまでもなく、朝鮮戦争のとき中国への原爆投下を主張したことからもわかるように、彼は軍人のなかでも戦争が好きなほうで、平和主義からそう言ったのではありませんでした。

自分が信じていない理想を涼しい顔をして他人に説くなんて、彼はどういう人だったんでしょうね。

要するに、日本は二度とふたたびアメリカに戦争を仕掛けるような国になるな、ということでした。

敗戦後の日本の平和主義は、アメリカの都合で押しつけられたものです。

◆平和の観念化

日米戦争は、アメリカ側の圧倒的勝利で、日本人は三百十万人ぐらい死にましたが(大東亜戦争の死者数ですが、大部分はアメリカとの戦争の死者)、アメリカ側の死者は五万人ぐらいでした(対独戦争の死者を含めれば、三十二万人ぐらい)。

日本側から見れば、日本の被害に比べて、アメリカの被害は、本土を空襲されたわけではないし、大したことはないとしか思えませんが、アメリカとしては、やはり痛手ではあったようで、戦争が終わるかなり以前から、今後、日本をして二度とふたたびアメリカに敵対させないようにするにはどうすればよいかということを考えていました。

原爆投下だけでなく、対日戦一般における、日本軍および日本国民に対するアメリカ軍の未曾有の残忍な作戦は、日本人に、アメリカは恐ろしい国なんだぞ、舐めるんじやないよ、アメリカを敵に回すとひどい目に選うんだぞ、ということを骨の髄まで思い知らせるためというのが目的の一つであったと言えます。

戦後の平和主義の押しつけもアメリカのそういう努力の一環だったと考えられます。

実際、日本占領中のアメリカ軍は、日本人が戦意とか闘争心とか後讐心とかをふたたびもたないようにしようと、おかしいほど神経質に用心していました。

『忠臣蔵』は復讐心を煽るとかで、上演を禁止されました。チャンバラ映画も禁止でした。

(~中略~)

僕の中学生のときは、占領軍のお達しにより、剣道部や柔道部は廃止されていました。

演劇、映画、中学校の部活にまで及んだこの平和主義の押しつけを、日本はあたかも日本が望んだかのように自己欺瞞しました

(~中略~)

念のため、断っておきますが、敗戦後の平和主義がアメリカの押しつけだと主張するからといって、言うまでもなく、僕は、反平和主義者でも戦争賛美者でもありません。

戦争は人間の最大の愚行であり、戦争より平和がいいに決まっていますが、それとこれとは問題が別です。

僕は、押しつけられた平和主義を、自ら選び取った平和主義に変えたいのです。

さっきも言ったように、両者は決して同じではありません。

押しつけられた平和主義を自ら選び取った平和主義と偽っている限り、本物の自ら選び取った平和主義を永遠に遠ざけることになります

押しつけられた平和主義は平和の敵です

押しつけられた平和主義は、自分で考え、自分で身に付けたものではありませんから、観念化します

観念化した平和主義は、平和とは具体的にどういうことであり、それへと至るにはどういう具体的方法があるかということについて何も指し示しません。

平和、平和と大声で叫ぶことしかできません

侵略されても武器を取らないとか、いかなる場合も戦争は絶対反対だとか言うのは、平和について具体的に何も考えていないことを示しています。

また、たとえば、日本は唯一の被爆国だと主張するのはいいですが、それは、自分たちは被害者だと言っているだけのことで、論理的に平和主義の根拠にはならないでしょう。

被害者として平和運動をやるというのは悪くないかもしれませんが、他の国の人たちに対する説得力はないでしょう。

他の国の人たちには、日本人は原爆を落とされて、二度とこんなひどい目には遭いたくないと怯えているとしか見えないでしょう。

それでは、日本人の平和主義は、戦争が怖いからに過ぎず、したがって、戦争が怖くなくなれば、すぐ捨てられるに違いないと思われるでしょう。

誰がそのような平和主義を信用するでしょうか

日本の平和主義が本物であると信用されるためには、押しつけられた平和主義を排し、自分自身の根拠と論理で平和主義を構築しなければならないと思います。

ひどい目に遭って怯え、戦争が怖くなって平和を唱えているだけなのに、あたかも、人類のため、正義のために平和主義者になったかのように振る舞っていては、まともに相手にされないのではないでしょうか。

現在の日本人の平和主義は、平和主義ではなく、降伏主義、敗北主義です。

アメリカに降伏して、平和主義を押しつけられて、そのままそれに従って今日に至っているのですから、それを平和主義と思っているのは日本人だけで、他の国の人たちには、当然、降伏主義、敗北主義と見えているでしょう。

これは一種のマゾヒズムと見ることもできるでしょうね。

マゾヒズムというと、鞭でしばかれたり、繩で縛られたり、侮辱されたりして性的興奮を得る性倒錯の一形態ですが、性的興奮とは関係のないマゾヒズムもあります。

フロイドが「道徳的マゾヒズム」と呼んだものです。

あえてわざわざ自分を貶めたり、卑しめたり、屈辱的立場においたりするのですが、それで性的興奮を得るわけではありません。

なぜ、そんなことをするのでしょうか。

僕は、この種のマゾヒズム屈辱回避(もちろん、自己欺瞞による主観的な屈辱回避であって、客観的には屈辱を回避できるどころか、ますます屈辱にはまり込みます)を動機とするのではないかと考えています。

同じような現象を、僕は、第三章では「精神分裂病」または「ストックホルム症候群(註)」として説明しましたが、マゾヒズムとして説明することもできますね。

(註)…拙記事・「自己欺瞞」と「精神分裂病/ストックホルム症候群」参照。

とにかく、敗戦後の日本という現象は、心理学的、精神分析的になかなか興味深い現象で、いろいろな観点から、いろいろなものに引き比べて検討するに値すると思います。

たとえば、敵が圧倒的に強く、屈辱的敗北を喫することが決定的であるとき、必死に抵抗するのをやめ、あたかも初めから勝敗にこだわっていなかったかのように見せかけ、そう自分でも思い込む、あるいは、敗北してしまったあと、もともと勝てないことは初めからわかっていたんだ、こんなことで争うなど馬鹿げていることぐらい知っていた、負けてよかったんだと思い込むことによって、敗北に屈辱を感じることを避けようとする自己欺瞞がこの種のマゾヒズムの背景にあると考えられます。

すなわち、あえて自分で自分を貶めることによって、俺は敵に負けて強いられてこうなっているわけじゃないんだ、俺はこういうのがもともと好きなんだと、敵にも見せかけ、自分でも思い込むのです。

たとえば、敵が十の譲歩を要求しているようだったら、こちらからわざわざ二十の譲歩をしてみせて、これこの通り、これは強いられた譲歩ではないんだ、もともとこういうことをしたかったんだ、だから、このように自分からやっているではないか、というわけです。

敗戦後、この戦争は負けてよかったとか、初めから負けるのはわかっていたとか、アメリカ占領軍は、日本国民を苦しめていた軍部を追っ払ってくれたとか、もともと日本国民が望んでいた改革をやってくれたに過ぎないとか、これで新しい平和日本が始まるとか、などのことが繰り返し言われましたが、これらは、道徳的マゾヒズムに特徴的な自己欺瞞です。

敗北の正当化が敗北主義へと、マゾヒズムヘと至るのです。

敗戦後の日本を特徴づけたのは、この種の自己欺瞞です。

日本人自身がこの自己欺瞞に頼っただけでなく、アメリカも、たぶん、それがアメリカにとって有利だと気づいたのでしょう、それを助長するように努めています。

たとえば、マッカーサーは、新憲法の不戦条項は幣原喜重郎首相が申し出てきたもので、氏の熱意に感激したなんて大嘘を言っています

日本は、いまの憲法、とくにこの不戦条項を、初めは抵抗したが、抵抗しても無駄だとわかって、仕方なく受け入れたわけですよね。

受け入れて、あとから、これでもいい、いやこれがいいという気になったのは確かでしょうが、日本側から自発的に申し出たというような嘘をつくるのはよくないです。

しかし、敗戦後、日本国民がもう戦争は懲り懲りだと本心から思ったという面もあったことは否めません。
しかし、自己欺瞞を覆い隠すために、そうした面が誇張され過ぎています。

みんな、戦争中は戦争を大いに楽しんでいました。

日中戦争には、志願兵が陸続と応募しました。今で言う、ボランティアです。南京陥落を祝って、大勢の者が旗行列をしました。真珠湾奇襲の成功の報に舞い上がって喜びました。

決して軍部に強制されて嫌々ながら戦争に引きずり込まれたのではありません。

むしろ、戦争好きの国民の人気を失うのが怖くて軍部が戦争へと傾いていったという面さえないではありません。

戦争を回避しようとする軍人は民間右翼の暗殺を恐れなければなりませんでした。
この民間右翼というのもボランティアです。

敗戦後は、それらのことはみんな忘れてしまったかのようです。

この忘却が自己欺瞞でなくて何でしょうか

次回へ続く)

【引用元:日本がアメリカを赦す日/第五章 平和主義の欺瞞/P104~】


護憲派の人たちには、上記の岸田秀の記述を読んで、もう一度自らを問い直して欲しいと思います。
本当に押し付けられた憲法で平和を維持することが出来るのかどうかを。

また、自分達が平和主義でもなんでもなく、その実、敗北主義・降伏主義に陥っていることを素直に認めるべきです。
それもできずに、政府やその支持者のことを「アメリカのポチ」呼ばわりするのは、まったくもって身の程知らずで、笑止千万というより他ありません。

そして、戦争の原因をひとえに軍部や軍国主義者に押し付け、自らは全くの被害者の如く装うのはいい加減にやめませんか?

それは、自己欺瞞を助長するだけで、何ら反省と呼べる行為ではありません。

例えば、沖縄の集団自決問題
「軍命令があった・なかった」という論点にばかり焦点があたり、軍命令がなかったと主張するものが軍国主義者とされ、あったとされるものが平和主義者だと、護憲派の人たちは勝手に規定しているようですが、これなんかナンセンスの極みですね。

軍命令を認めるか認めないかで、「反省しているかどうか」が判定され、認めないものは、一方的に「平和の敵」「ネトウヨ」扱いされる。

軍国主義者を叩く為なら、「軍命令があった」という「事実」が創作され、「真実」となってしまう。
「事実の認定」は”思想信条に関係ない”はずなのですがねぇ…。

この沖縄の集団自決を巡る現象も、岸田秀の指摘する「忘却」を体現しているような気がしてなりません。

ちょっと最後に話が逸れてしまいましたが、今日はこの辺でやめておきます。
次回は、「世界に誇る平和憲法」について、岸田秀の主張を紹介していく予定です。


【関連記事】
・平和主義の欺瞞【その1】~日本人の平和主義は「強姦された女の論理」~
・平和主義の欺瞞【その2】~自己欺瞞によりますます卑屈になる日本~
・平和主義の欺瞞【その3】~現実を直視しなければ不可逆的に失敗する~
【参考記事】
・「ニセ物に固執する精神」~憲法改正がタブー視される理由とは~
・「自己欺瞞」と「精神分裂病/ストックホルム症候群」
・「内的自己」と「外的自己」とに分裂した近代日本/きっかけはペリー来航だった!?
・自己欺瞞と偽りの謝罪論【その1】
・自己欺瞞と偽りの謝罪論【その2】



FC2ブログランキングにコソーリと参加中!

「ポチっとな」プリーズ!
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:心理学 - ジャンル:学問・文化・芸術

このページのトップへ

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://yamamoto8hei.blog37.fc2.com/tb.php/226-a91a5608
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

天下の知恵者が知恵を絞る世界の恐ろしさ

最近テレビの傾向が、郵政民営化に反対の者にとって、なんとなく心地よい報道が増えているような気がしていた。 読売テレビの「みやねや」等では、鳩山総務相辞任の報道が、明らかに総務相を応援しているもので、鳩山邦夫氏に肩入れしていた私としたら、意外な思いながら

  • 2009/06/21(日) 07:02:46 |
  • 春 夏 秋 冬
このページのトップへ

FC2Ad

プロフィール

一知半解

Author:一知半解
「一知半解知らずに劣れり」な自分ではありますが、「物言わぬは腹ふくるるわざなり」…と、かの兼好法師も仰っておりますので、ワタクシもブログでコソーリとモノ申します。
一知半解なるがゆえに、自らの言葉で恥を晒すのを控え、主に山本七平の言葉を借用しつつ書き綴ってゆきたいと思ふのでアリマス。宜しくメカドック!!
日々のツイートを集めた別館「一知半解なれども一筆言上」~半可通のひとり言~↓もよろしゅう。

http://yamamoto7hei.blog.fc2.com/

★★コメント欄運営方針★★
・基本的にどんなコメント(管理人批判も含め)でも一度は公開します。
・事前承認制ではありませんので、投稿するとすぐ表示されてしまいます。投稿前に、内容の再確認をお願いします。
・エロコメント及び勧誘サイトへ誘導するようなコメントは気付き次第、削除します。
・管理人宛てのコメントには、出来る限り対応していきたいと思います。ただ、あまりにも多連投コメント及び悪質・粘質なコメントは放置する場合があります。
・管理人はコメント欄の運営については自由放任という立場です。当面は、たとえ議論が荒れてしまっても不介入の方針でいきます。議論はとことんやっていただいてかまいませんが、できるだけ節度やマナーを保って議論していただきたいと”切に”希望します。
・本人よりコメント削除要求があり、管理人から見て、明らかに事実無根の中傷・名誉毀損と判断した場合は警告の上、当該コメントを削除することがあります。

FC2ブログランキングにコソーリ参加中
「ポチっとな!」please!

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

カレンダー

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

FC2カウンター

QRコード

QR

一知半解宛メール箱

私、一知半解まで個人的にメールを送りたい方はこちらのメールフォームをご利用ください。

名前:
メール:
件名:
本文:

バロメーター

Twitter on FC2

ブログ内検索

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する