一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

社会保障には、人間性を破壊する負の面があるのではないだろうか?

前回の記事『社会保障が完備された社会があったとしたら、それは果たして「理想郷」たりえるだろうか?』とも併せて考えたい山本七平のコラムを紹介します。

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(1987/12)
山本 七平

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◆アメリカの不思議

ニューヨークヘ行ったところ、偶然の機会から、「戦後三〇年のアメリカ」というビデオを、ある宗教団体で見せてもらった。

トルーマンからアイク、ケネディジョンソンニクソンと移り行くうちに、社会がどのように変化し、悪化し、崩壊して行ったかを克明にたどっているビデオである。

少年ギャング、麻薬患者、児童虐待、街頭での殺人、少女売春等々が、これでもか、これでもかといった調子で登場し、同時にベトナム反戦運動公民権運動、徴兵令状焼却、「人殺し」とホワイトハウスに向かって叫ぶデモ隊、警官隊の弾圧、ケネディの暗殺、キング牧師の暗殺、ニクソンの辞任等々の場面が入ってくる。

そしてそれを見ていると、少々不思議な気持になる。

というのはだれ一人、社会を悪くしようと努力しているわけでなく、人びとの叫ぶスローガンはすべて立派であり、平和、人道、博愛、反戦、人間の権利、差別撤廃、最低賃金制の確立、社会保証の充実が常に口にされ、しかもある意味では確かにその一つ一つが達成されながら、一方ではぐんぐんと社会は悪化していくのである。

なぜであろうか。

ビデオはそれを問いかけながら、何一つ解答は提示されていない。

一五年ほど前、全米を自転車旅行をした人の話を間いた。
当時はすべての人が親切で、こんな良い国はないと思い、さらに叫ばれるスローガンの内容から、もっともっと立派になると思ったそうである。

そこでもう一度自転車旅行をやろうとしたのだが、今ではそんなことは到底不可能だと思い知らされたという。

そしてその人は、一国がかくも短期間に、このような悪しき変化を遂げたことの理由を何とか探りたいと思ったが、だれに聞いてもそれはわからなかったという。

そして、以上のようなことから得た私の大変に乱暴な結論は、社会を良くしよう良くしようという努カがすべて裏目に出て、そのたびに社会が崩壊していったということであった。

というのは、どこをどう探しても、それ以外に理由らしい理由は見当たらず、個々の問題で人びとが口にする言葉は結局、要約すれば以上のようになってしまうからである。

たとえば最低賃金制が確立する。

すると使用者側は当然、生産性が高い者を雇用しようとする。
その際、それならば自分はもっと安い賃金でよいから雇って欲しいと思っても、それは許されない。

ただし、生活保護は受けられ、フード・クーポンが簡単にもらえるから、日々の生活には不安はない。

だが、政府というものはそれ以上のことはしないし、現実にできない。

では人は、その状態で精神的満足が得られるかとなると、そうはいかない。

人間はこの地上に出現して以来、何らかの労働によって食を得て来た。
と同時に、その社会の何らかの集団の中で一定の役割を演ずることによって精神的充足を得てきた。

その両方を失えば、精神的におかしくなるであろう。

しかし結婚をすれば、子供も生まれる。
そのためか、児童の虐待は少々異常である。

子供をオーブンで焼き殺したなどという例もあり、現にビデオには背中に大きく格子縞のような火傷のある子供が映されていた。

これは特異な例としても、宗教団体のカウンセラーが家庭訪問をすると、母親は大声でわめき散らし、手当たり次第に子供を殴打している例などは少しも珍しくないという。

そこには、もはや「崇高な母親像」など全く見られない。

育児を喜びとし誇りとすることで保たれて来た「母」という位置は、その責任がどこにあるのかあいまいになることによって消えてしまった。

確かに託児所も養護施設も完備しているし、この面でボランティアとして熱心に働いている人もいる。

しかしそれらが完備すればするほど、また従事する人たちが熱心になればなるほど、育児の責任はだれにあるのかわからなくなっていく

以上は、ビデオで見せられたことと、それと関連なく聞いた話との二つから得た印象である。

印象はもちろん印象に過ぎず、アメリカは多様な国だから、それらとは別に、普通の生活をしている人も多いのであろう。

現に私の友人はすべてノーマルである。
しかしそこには、ある種の問題が提起されているように思う。

多くの人は、自然の破壊とか巨大産業とか機械文明とかに危惧をもっており、自然を尊重し、自然に順応すべきだと説く人は決して少なくない。

しかし不思議なことにその人たちは、人間もまた自然界の一員であり、おそらく何十万年か何百万年かをそれで過してきた「自然な生き方」というものがあり、自然を尊重せよというなら、まず最初に尊重すべきことはそれだということを忘れているように思われる。

アメリカ人が、社会を良くしよう良くしようと努力してきたことは、ことによったら「人間の内なる自然」の破壊だったのではないか、それは、ひたすら富める社会を造ってすべてを充足しようとしたことが、外なる自然を破壊して行ったのと同じことではなかったかと、ふとそんな気もしたのである。

【引用元:「常識」の研究/Ⅰ 国際社会への眼/P44~】


このコラムを読むと、社会保障のあり方ってどうあるべきなのか?と思いますね。
確かに、社会保障を整備することで救われる人たちがいることは否定できない。

しかしながら、必要以上に、それに頼ったりたかったりする人たちも出てくる。

確かに頼ることで、彼らは救われている一面はあるものの、その反面、彼らが「労働」と「その社会における自身の存在意義」を失いがちになることは避けられない。

その二つを失えば精神的におかしくなる、と山本七平はアメリカの例を挙げて指摘していますが、これは日本でも同様じゃないでしょうか。

こんなことを言うと、働く女性から怒られてしまうと思いますが、子育てを他人に委ねてまで働く社会というのは果たして正常な社会なのか?

人間の本来の営みをおろそかにしてまで効率性を追い求め、富める社会を追い求める社会というのは、健全な社会なのか?

少なくとも、社会保障を「絶対善」と見なし、そればかりを追い求める社会が、果たして人間らしい社会と言い切れるか?暮らしやすい社会になるか?

疑問を感ぜずにいられません。

社会保障の一面に、人間性を破壊する副作用が潜んでいるのではないか?との恐れを抱く必要があるのではないでしょうか。
少なくとも、社会保障が無条件に良いというのは単純な思い込みであるように思います。

理想的な社会保障制度とは、人間本来が持つ「生活力」を損なわない程度に、抑制したものであるべきかもしれません。

とは言っても、現実の社会を見れば、昔社会保障の代わりを担っていた家庭や地域のコミュニティが崩壊している現状があることも事実。

難しいかと思いますが、社会保障一本やりではなく、家庭や地域の再生を計るべく対策を考える必要があるのでしょう。

そして、大切なことは、日本人の美徳である「勤労精神」を損なわないような、社会保障制度を構築していくことなのではないかと思います。

社会保障制度も、その勤労精神を基にした社会によってはじめて維持できるのですから。

母体を損ねない制度づくりが大切ですよね。

余談になりますが、そういうことを考えると、生活保護不正受給の問題などは、厳しく追及していく必要があるのではないでしょうか。

そんな時、弱者救済を声高に叫ぶ共産党などが、不正受給に無関心であるのを見ると、本当に弱者のことを考えているのか非常に疑問に思えてなりませんね。

【関連記事】
・深谷市の生活保護不正受給について報道しない赤旗新聞

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コメント

高田達郎さんへ

高田達郎さん、レスありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。

  • 2010/04/10(土) 22:49:42 |
  • URL |
  • 一知半解 #f2BEFQoE
  • [編集]

コメントありがとうございます

ブログ拝見いたしました。
またまた感心をさせられましたが。
実際は皆一人で生きてる訳ではないのに、社会の風潮はまるで一人で生きて行けるような事ばかり考えるようになっていますもんね…
しかし、私自身も判断力は弱っているように思いました。
文句ばかり言わず、自分のできることを考えていきたいと思います。
ありがとうございました。

高田達郎さんへ

高田達郎さん、初めまして。
コメントありがとうございます。そう仰っていただけますと嬉しいです。山本七平を紹介した甲斐があります。

高田さんのご不安、私も同様です。
こうなりつつあるのも、責任転嫁がまかりとおる社会になってしまったからではないでしょうか。

自らが被った不利益を、社会の所為にし、他人の所為にする。
自助努力をする人間よりも、ノイジーに権利を主張する人間が報われる社会になりつつあるのも、皆が責任を他に転嫁するようになったからではないかと。

例えば、「社会が子どもを育てるのだ」という思想に基づいている「子ども手当」などは、親の責任を社会に転嫁するのを助長しているようなものでしょう。

また、マクロな利益よりも、ミクロな利益ばかり追求するような風潮もそうした傾向に拍車を掛けていますね。

私が尊敬している(北海道で民間ロケット開発に尽力している)植松電器の植松社長が素晴らしいことを書いていますので、一部紹介と、その記事に関するリンクを貼っておきますので、宜しかったらご覧ください。

(~前略)

でも、こんなめちゃくちゃな事になってしまったのは、ひとえに、ものすごくミクロな視点での「損得勘定」によるものです。
キャッシュというミクロな価値観で、損得勘定するからこうなったのです。
社会によゆうを与えるのではなく、いかにして、他人にはぎ取られる前に、自分がはぎ取るか、という人ばかりだったからです。

不安をあおり、ありもしない価値観を押しつけ、お金をだまし取るような社会を変えましょう。
変えないと、未来はありません。

(後略~)


・日本人に足りないのは、「公の心」と「判断力」
http://yamamoto8hei.blog37.fc2.com/blog-entry-92.html

  • 2010/04/06(火) 22:37:03 |
  • URL |
  • 一知半解 #f2BEFQoE
  • [編集]

すごく感心しました!

ネットでたまたま見つけて拝見いたしました。
すごくなるほどと思います。
私は最近、日本がどんどん権利主義社会になっているようで、すごく不安です。
社会制度が進むにつれ、パワハラ、セクハラ、モラハラ、DV、体罰問題、医療訴訟問題、生活保護問題、未成年問題、差別問題など、結局は本当に困っている人を助けるより、武器として使われるケースが多いようです。
モンスター〇〇のように。
もちろんこれらを肯定するわけではないですが、精査の出来ない保証は人を駄目にしていると思います。
根本的な解決に至らず、他人に対して臆病になるばかりで、救急搬送のたらい回しや、教師や学校の弱体化は、これらから発生していると思います。

これからの社会は、このまま行けば、弱者を名乗る者が頂点に立つようになるのではないでしょうか。

1読者さんへ

1読者さん、コメントありがとうございます。レスが遅くなってすみません。

「合成の誤謬」についてご教授くださりありがとうございました。
確かに似ていますね。何事も安易な解決はよくないみたいですね。
「木を見て森を見ず」といったところでしょうか。

>私はむしろ、近年表面化してきたと思われる保守派の中にある安易な改革思考こそ、社会を混乱させ事態を一層深刻化させてきた元凶ではないかと感じています。
>一見すると保守派の台頭のように見えて、実はマスコミによって増幅された左翼的な改革願望の顕在化に過ぎなかったではないか、と私は考えています。


なるほど。確かに1読者さんが言われるように、左派よりも、そうした面の方が悪影響を及ぼしているかもしれません。

残念ながら私は、そこまで考えが至りませんでした。
このご指摘については、私ももう少し考えてみたいと思います。

中西教授の保守の定義のご紹介も、考えさせられました。
いろいろとご教授くださり、ありがとうございました。

  • 2009/07/27(月) 22:28:07 |
  • URL |
  • 一知半解 #f2BEFQoE
  • [編集]

 「社会を良くしよう良くしようという努カがすべて裏目に出て、そのたびに社会が崩壊していったということ」、これは経済学で指摘されている『合成の誤謬』という問題と極めて似ています。Wikiでは、合成の誤謬とは「ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロ(集計量)の世界では、必ずしも意図しない結果が生じることを指す」と定義されています。具体的には、政府が均衡財政を維持しようとして歳出を削減したところ、却って自らの歳出削減による経済縮小と歳入減少に苦むこと、などが例として挙げられています。大恐慌時のアメリカ政府がその典型例ですが、ごく身近にも「改革!改革!」と叫びながら、これと同じことをやって、国内のデフレが止まらず、国民所得と個人消費の減少による歳入減少で、却って財政均衡が悪化してしまった国もありましたw

 個人のレベルでは正しいことでも、国家の政策にその発想を持ち込むと必ずしも妥当な結果が出ないことは良くあることです。そしてこのことは、単に経済問題だけでなく、政治・社会問題にも当てはまることでしょう。その意味で、「弱者保護」はもとより「生活者の目線」とか「消費者の視点」などといったものを国政に直に持ち込むことには、かなり警戒する必要がありそうです。

 今回のコラムは、社会保障のあり方が例として取り上げられていますが、より根源的には社会問題に対する見方、あるいはものの考え方それ自体に関わってくる側面もあると思います。一知半解さんは、おそらく主として左派的な改革思考を念頭に置いておられると思いますが、私はむしろ、近年表面化してきたと思われる保守派の中にある安易な改革思考こそ、社会を混乱させ事態を一層深刻化させてきた元凶ではないかと感じています。

 そこで、まず、中西輝政氏の『いま本当の危機が始まった』から、伝統的な保守主義に関して述べた部分を引用してみます。

『ここでいう保守主義すなわち本来のコンサーバティズムとは、人間存在の本質をモノではなく精神の中に見出し、現実の厳しさと人間という存在が矛盾に満ちたものであることを直視し、あわせて国際環境というものの「本質的な過酷さ」を受け入れる人間観、あるいは世界観のことである。保守とは「古いもの」を守ることではなく、こうした人間とこの世界の根本を見つめる視点を踏まえ、「人間の本質は永遠普遍に変わらないもの」と悟ることである。』

 ここで指摘されているように、伝統的な保守派というのは、社会の複雑さや現実の厳しさを直視し、それをありのまま受け入れるがゆえに、その問題解決にあたっては、安易な改革思考によるのではなく、経験的に実証されてきた伝統的な対処法を重視するという立場なのではないかと思います。

 この意味で、近年「小泉改革」に熱狂し狂奔した世論というのは、一見すると保守派の台頭のように見えて、実はマスコミによって増幅された左翼的な改革願望の顕在化に過ぎなかったではないか、と私は考えています。

*現在でも、一応保守派の立場を採りながら小泉改革に幻想をもち続け擁護している人の多くが、(私が一知半解さんサイトを訪れるキッカケとなった「依存症の独り言」の坂さんのように)左派からの転向組、いわば「日本版のネオコン」であるという点には注意が必要でしょう。そして、おそらく無自覚的に民主党支持の世論形成の一翼を担っている点についても。

  • 2009/07/25(土) 18:40:42 |
  • URL |
  • 1読者 #-
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一知半解なるがゆえに、自らの言葉で恥を晒すのを控え、主に山本七平の言葉を借用しつつ書き綴ってゆきたいと思ふのでアリマス。宜しくメカドック!!
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