一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

資源問題に関する日本人の「現実的」態度は、世界に比べて現実的だろうか?

今回ご紹介する山本七平のコラムは、我々日本人が、もっとも気に留める必要がある事だと思います。

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(1987/12)
山本 七平

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◆現実的態度とは


資源問題は、人類がこの世に出現すると同時にはじまった問題である。

かつての人類は、各人・各民族の行動半径が狭かったが、狭いなら狭いなりにその世界という限定された場所において資源問題に苦しめられた。

そしてその跡をたどると、当時の苦しみは、地球という狭い世界で人類が資源問題に苦しむのと、原則的には変化がないように見える。

この問題が最も端的に出てくるのは、砂漠地帯におけるオアシスの争奪戦である。
オアシスという「生存の資源」を奪取されれば奪取された者は家畜もろとも全滅する。
一方、奪取しそこなったらしそこなった方が同じ運命になる。

もちろん降伏はない。

降伏しても、水の量には限度があるから生存は不可能、その者もやはり家畜もろとも死ぬ。

この、双方が自己の生存をかけた資源争奪戦のありさまは、旧約聖書出エジプト記に象徴的に記されている。

エジプトを脱出したモーセの一行は、シナイ中央部のオアシス、カデシ・バルネアアイン・カデースを目指し、ここを根拠地にしようとした。
ところがここには先住者アマレク人がおり、どちらがオアシスを占拠するかの死闘が演じられた。

一方がオアシスを奪取すれば、他方は周辺の丘陵に逃げる。
しかし、そこにいれば餓え死にするからすぐ逆襲に転じてオアシスを奪還する。
奪還された方は、一時待避しても状況は結局同じだから再奪取の攻撃をかける。

これが繰り返されて、一方が一人残らず死滅するまでつづくのである。
日没になり、アマレク人は文字通りに全滅し、モーセの一行は、はじめてオアシスを確保したと聖書は記している。

われわれには、少々ものすごさが過ぎて、そういう現実を見たくない思いのする物語である

だが、これが彼らの「生活の座」すなわち「目をそむけることが許されない現実」であり、そこにあるのは「生存か死か」であっても「是非善悪」ではなかったことが、端的に示されている。

われわれに、見たくないことから目をそむけ、触られたくないことに触らず、考えたくないことを考えずにいた方が幸福だといった傾向があることは否定できない。

いわば「触らぬ神にたたりなし」で自分の方からそれに触らないでいれば安全だという一種の宗教的信念である。

興味深いことに、砂漠の民の伝統が最も嫌って徹底的に排除するのがこの考え方で、彼らは前記のような現実を無理矢理にも人の目につきつけようとする

それはある面では、われわれが本能的に目をそむけたくなるような、強烈な一種のリアリズムであり、宗教とか信仰とかいった言葉まですべて、このリアリズムの上に築かれている。

まして現実面における対策はすべてこの現実を踏まえており、この現実を踏まえていない対策は、彼らにとっては対策ではない。

われわれは、こういう世界に住んでいなかった

そして自らの伝統に基づき国内的には「勝ち抜き勝負」的な「優勝劣敗」の淘汰の世界を排除し、相互扶助的・家族主義的な長幼序列の世界をつくっている。

伝統だからそうなることは不思議ではないし、それがわれわれの「現実」だから、それに「現実感」をもつことも否定できない。

以上のことが、資源問題(だけでなくすべての問題について言えることだが)について、われわれが、国内的な対処において最も現実的な態度をとれば、世界的な視点において、最も非現実的な態度になってしまう理由であろう。

われわれには「エネルギーのオアシス」はすでに奪取され、その配分を受けられるのは、余剰がある間だけだという明確な意識はないが、この意識をもたないのはわれわれだけのように見える。

だがそういう態度は、われわれには現実的なのであろう。

オイル・ショック以来、日本人は現実的になったと言われる。
だがその現実的態度が果たして世界に通用する現実なのか、もう一度検討する必要があるであろう。

【引用元:「常識」の研究/倫理的規範のゆくえ/P185~】


資源問題とは関係ないのですけど、最近、護憲派の方々と議論していて思うのですが、彼らには上記の視点というものが欠けているか、軽視しているような気がしてなりません。

「現実を見ろ」と突きつけても、嫌がって顔を背けるような傾向が強いように感じます。
ま、これは護憲派に限ったことではないと思いますが。
護憲派はその度合いがヒドイような気がしますね。そう指摘する自分自身も、現実を直視しているかと問われれば怪しいものですけど(汗)

ただ、日本以外の世界はこの「強烈なリアリズム」を基に動いているということを、頭の片隅にでもしっかり憶えていないといずれ痛い目にあうことでしょう。


【関連記事】
・ソマリア海賊問題から「海上秩序の傘」について考える
・平和主義の欺瞞【その3】~現実を直視しなければ不可逆的に失敗する~



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コメント

現実から目を逸らした理想論は有害無益

ejnewsさん、コメントありがとうございます。

>資源については有り余るよりも多少足りない方が新しい科学的進歩を促すので殺し合いで競争するより脳味噌で競争した方が終局的には利益になる可能性が高いのでは?

仰るとおりだと思います。
資源獲得競争が結果として逆に重荷になることもありますから、やはりこの問題はバランスなんでしょうね。

技術革新は確かに資源問題のブレイクスルーになり得ると思いますが、技術革新でも対応できない部分については、弱肉強食の世界も当然であることを冷静に認識すべきではないかと…。

ただ、私がこのエントリで述べたかったのは、「何も殺し合いに備えよ」ということではなく、現実を直視できるようになれ!ということに過ぎないのです。

現実から目を逸らしながら、「話し合い」でとか、「協調して」とか主張するのは、やめるべきであると言いたいのです。

今現在は、そのような”絵空事”を主張するだけですから、ある意味「人畜無害」ですが、この理想論を「強制」するようになったら、それこそ(現実を無視した作戦を押し付けた)日本軍の指導者と何ら変わらないではありませんか。

人畜無害とはいえ、現実から目を逸らさせるような「惑わし」は、実に迷惑です。

そうした”絵空事的”主張には、今後も厳しく対処して行くべきだと私は思っています。

  • 2009/08/09(日) 13:25:35 |
  • URL |
  • 一知半解 #f2BEFQoE
  • [編集]

民主主義について又お聞きしたい事がありコメントさせて頂きましたが、今回の主題も昔から世界的に論争されている重要な人間性のあり方についての論議ですね。(何時も興味深い題材を取り上げられて非常に脳を刺激するブログだと思っています。)
 処で、此の強者が全てを勝ち取ると言う考え方は近代の政治思想ではイギリスのホッブスが言い出したのではないかと思います。彼は『人間は生まれもって獰猛であり自然に任せておくと御互いに殺し合い生き残った物は頭の良くない醜い身体の小さな物だけになってしまう.............................』と言う様な事を彼の著書に書いています。後に歴史家達はこの様な“生き残り”と言うモットもらしい理由で闘われる競争や戦争を“ホッブス的戦争”と呼んでいます。後にダーウインが彼の著書で“ナチュラルセレクション”と言う言葉で同じ様な議論を展開しています。(唯、ダーウインの場合は後の著作で『自然界では相互扶助が生存の為に重要である。』とも書き残しています。)
 問題はダーウインの『種の起源』等で説明された“自然淘汰”を曲解した想像力に欠ける無能な思想家達によって“ソシアルダーウィニズム”と言う“強い物だけが勝ち残る”勝ち残った物は他と比べると優秀であるから当然支配する権利がある”と言う似非社会科学に発展し、後のナチスドイツのナチズム思想にと発展していった歴史があります。
 人間は常に変化している生き物で旧約聖書の時代と比べるとキリストが『殺しあうより皆で弱者も助けて生きようよ!』と言い出したり、それ以前には仏陀が『“生き残り”と言う理由等で野蛮な行為をすると結局は将来のもっと大きい問題の原因を造っているだけだから論理的ではないよ!』と言い出したりし、同じ頃中国では伝説の老子が『人間は何も解かっていない。』と言う様な事を言い出していて、それからも人類は徐々に野蛮と言われた状態から精神的にもっと発展進歩した状態に向かわせる努力をしているのだと思います。
 資源については有り余るよりも多少足りない方が新しい科学的進歩を促すので殺し合いで競争するより脳味噌で競争した方が終局的には利益になる可能性が高いのでは?資源獲得の為日本は大陸、東南アジア侵略アメリカはヴェトナム戦争、最近はイラク侵略で苦悩した(している)歴史があります。
 ドイツで人工の火薬が発明されたのも第一次大戦中チリの自然の硝石が手に入らず戦争続行が不可能になったからだと言う史実や、現在まで日本の自動車が高性能で世界的に有名になったのも石油等の資源に乏しく、其れが必然的に高性能の自動車が生産される下地になった事等も無視出来ないのではないでしょうか?其れに比べて殆どの資源に不自由しないアメリカの一時的技術的社会的停滞は資源の量は実は反対の効果を現す事もあると言う好例ではないでしょうか?

  • 2009/08/01(土) 11:40:31 |
  • URL |
  • ejnews #-
  • [編集]

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