一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

レイシスト的思考【その2】日本人→鯨殺し→悪人→日本製品ボイコット

前回の記事「レイシスト的思考【その1】~まず国を想起するのが人種差別主義~」の続き。

前回、まず国を想起するのが、レイシスト的思考であると指摘がありましたが、今回は山本七平がアメリカに行って見聞した「鯨保護運動」を例に説明を加えていきます。

日本人とアメリカ人―日本はなぜ、敗れつづけるのか (ノンセレクト)日本人とアメリカ人―日本はなぜ、敗れつづけるのか (ノンセレクト)
(2005/04)
山本 七平

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捕鯨禁止運動の会長に逃げられる

こういう発想は、対外的にはわれわれにもあって「レバシリ」(レバノン人とシリア人、最もガメつい人間)といった隠語もあるわけだが、アメリカの場合は、これが対外的にではなく、対内的に作用するから、国際問題ではなく国内問題・社会問題になり、奇妙な緊張を社会にもたらす

幸い日本にはこれがないが、世界が狭くなり対内・対外の区別がつきにくくなってもこの問題に無関心でいると、レイシストと言われまいとしてA型の発言をして非難され、あわててB型の発言をしてまた非難され、「天性のレイシスト」などと言われて、どうしていいかわからないという状態に落ち込むかもしれない

というのは私自身、出発前に「鯨問題」を調べて、「おかしい」と思う点はあっても、その背後にレイシスト的発想があるとは夢にも思っていないから、天皇へ「鯨殺すな」デモがあれば、わが”無能なる外務省”のPR不足が原因であろうと考え、デモの組織者である野生動物保護協会の会長バーンズ氏と、この問題について直接に討論したいと考えていたからである。

私は出発前に、朝日新聞社を通して、バーンズ氏との面会の確約を書面でとった。
今回の訪米で、こういう方法をとったのは彼にだけである。

そのうえさらに、ワシントンから電話でもう一度、日時を確認し、承諾をとった。

だが、ニューヨークについて電話をすると、秘書が出てきて、急用・旅行中・不在で会えないと言う。

「ずるい(スマート)やり方だ」

アメリカ人がこういう行動をとった場合、どう解すべきかと、サンフランシスコでエディソン・宇野氏にたずねたところ、彼がまず口にしたのがこの言葉であった。

だがこのときには私は、バーンズ氏のこの「逃げ」を、少しも不思議に思っていなかった。
というのは議論をして行けば、相手をレイシストだときめつけうる自信が私にあり、相手は当然にそれを察知していたからである。

鯨を絶滅から救え→捕鯨を禁止せよ→鯨をとっているのはロシア人と日本人である→従って日ソ両国に捕鯨の中止か判限を求めよ、という発想なら、これはレイシズムではない

そしてこの発想なら、レイシズムを除外した討論が成り立つから、私は次のように主張するつもりでいた。

(一)ロシア人にとっては鯨油だけが必要で、しかも鯨油の一部はミサイル用で、軍需といえる。
(二)しかし日本人にとっては鯨は蛋白源であり、不可欠の食料品でもあって、しかも平和利用しかしていない。
(三)従って捕鯨の禁止はまずソビエトに対して要求するのがアメリカの利益のはずである。
(四)さらに、もし牛脂だけのため牛を殺して肉を捨てる者と、食用として肉を利用する者とがいるとしたら、あなたはどちらに牛を捕獲する権利があると考えるか、地球上で最後まで鯨をとる権利がある民族があるとすれば、それは日本人とエスキモーのはずである等々……。


そして私は、出発前から、これ以外にもさまざまの反論を用意し、議論の進め方まで、練っていた。

◆「鯨殺し」となぐられた日系の子供

だが、堀内さんと相談しているうちに、「こりゃ違うぞ、確かにこの鯨問題は、氏のいう通り、レイシズムの一表現だ」と感じた。

というのは、まずその発想が、日本人→鯨殺し→悪人→日本品ボイコット→日系排撃という順序で進んでいる

小学校では、黒板に「丸顔・メガネ」という伝統的な日本人の戯画を書き、「鯨殺し」と書いて日系の小学生をボイコットする。
否、「鯨殺しの日本人」と宣告されて子供がなぐられた例もある。

三歳の日系の少女が「お前は悪者だ」と年長の少女にいわれ「なぜ?悪者なの」と反間すると「鯨殺しだからだ」と言われたという。

あとで聞くと何とこれが日系市民協会サンフランシスコ支部長ディヴィド・牛尾氏のお嬢さんなのである。

「日本人→鯨殺し→……」のレイシズム的発想は、すでに子供の世界にまで入っている

無理もない。

「鯨を救え」「日本品をボイコットせよ」は一つの標語、その下には排撃すべき商品がトヨタを筆頭に列記され、ソビエトについても言及はしているが、これは名目にすぎず、従って「ロシア系排撃」などは全く起こっていない。

この背後に労働組合の策動もあり、またキャンペーンに便乗した寄付金集めもあって、そしてこれは、日系だけを戦時収容所に入れ、ドイツ系はそのままにした発想と同じだ、と堀内さんは言った。

日系市民協会は当然これに反撃し(ここでまた「二世はこういう時にも何も言わない」という三、四世の不満を聞いたが)、『ロサンゼルス・タイムズ』は「日系、鯨”反動”を恐怖」と大きくこれを取りあげ、オハイオ州の『ザ・プレイン・ディーラー』も杉山会長の抗議を掲載し、中国系新聞は「鯨殺しの日本人」の排日マンガを再録した上で、日系の抗議と宇野さんのコメントを収録、また「行動するアジア系市民」の会は、日本品ボイコットが、欲求不満の、日本と日系への転化――いわば”魔女狩り”的行き方――で、問題の本質を市民の目からそらすことだと警告している。

「鯨の虐殺をやめよ」「日本の人民よ、鯨を救え」といった天皇に向けられたプラカードの背後にあるものは、日本人への敵意「第二次大戦の影」だという「行動するアジア系市民」の会の言葉が示す通りの現象と言わねばならない。

「だがしかし、それはやはり、日本側のPR不足もあるんじゃないでしょうか。蛋白源だといえばアメリカ人は納得するんしゃないですか」といって私は、前述の、「鯨肉蛋白源者」と「牛脂・鯨油だけの者」の対比論を堀内さんに話した。

「いや、鯨を食うのがよろしくないというんです」
「エエッ」
「FDA(食品医薬品局)が鯨肉缶詰めの輸入を禁止したという噂もあって……」。

海外に出ると日本人はみな”愛国者”になるといわれるが、私もこの辺で少々頭に来ていた。

次回へ続く)

【引用元:日本人とアメリカ人/第七章 捕鯨禁止運動の背後にある人種主義に気づかぬ日本人/P155~】


前回のラルフ・ネーダーの例に比べると、鯨保護の例は、とてもわかりやすかったのではないでしょうか。
このように発想の順番を辿っていくことで、その主張の背後に、レイシズムが潜んでいるか否か、ある程度つかめるのではないか…と思います。

それはさておき、今回引用したくだりについては、この「日本人とアメリカ人」を執筆するよう依頼した稲垣武氏があとがきで触れていますので、その部分を以下ご紹介しておきます。

(~前略)

山本さんは訪米前、捕鯨禁止運動の実像を究明するため、反対運動を組織していた野生動物保護協会のバーンズ会長との会見を希望され、私は日本からアポイントメントを取り、確約の手紙も送られてきた。

そのうえ山本さんはワシントンから電話で日時を再確認きれるという念の入れかただったが、いざニューヨークに着いて電話すると先方は急用で旅行中という口実で忌避されてしまった。

山本さんはバーンズ会長との討論に備えて、出発前から想定間答まで用意されていただけに、落胆されたと思う。

帰国後、お会いした第一声でもそのことに触れられ「鯨のことになると血が騒ぐのでね」と顔面を紅潮されて言われた。

そのわけを訊ねると、山本さんのご両親は江戸時代からの捕鯨の中心地であった紀州・三輪崎の出身であり、父上の長兄が家業を継いで捕鯨船の船長をされていたと照れくさそうに答えられた。

日本人離れをしていると思っていた山本さんも、やはり日本人の血、少なくとも紀州の「鯨捕りの血」が脈々と流れているのだなあと、何だかホッとしもしたし、微笑ましく思ったのを覚えている。

【引用元:日本人とアメリカ人/解説にかえて/P202~】


山本七平がデモの組織者である野生動物保護協会の会長バーンズ氏と会えなかったことが、つくづく惜しいですね。
レイシスト的思考の持ち主は、行動も卑怯ということなのでしょう。

次回は、レイシズムの基は何かということについてと、合理的・非合理的との関連について、山本七平の考察をご紹介していく予定です。ではまた。

【関連記事】
・レイシスト的思考【その1】~まず国を想起するのが人種差別主義~
・レイシスト的思考【その3】合理性の追求が、非合理的現象”魔女狩り”となって現れる
・「敵への憎悪」は理解できても、「人種的憎悪」は理解できない日本人


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