一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

聖トマスの不信【その3】「天皇を政治利用してはならない」ということを「利用する」という型の二重の虚偽

以前の記事「聖トマスの不信【その2】なぜ日本では、聖トマスが存在しないのか?」の続き。

今回ご紹介する箇所は、戦前の議会政治が、どのように天皇利用することによって崩壊したのかについて述べたところです。

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そしてこの場合は、落ちていくのはもちろん与党だけでなく野党も同じである。

私は実は以前から、戦前、軍部や右翼が天皇を政治に利用したやり方が、この「二重の虚偽」の逆用だと思っていただけに、今回の野党の動き(註1)は、ちょっとショックであった。

(註1)…増原内奏問題(wiki)参照のこと。野党が、田中角栄内閣当時の増原防衛庁長官が天皇に内奏した際の天皇の言葉をマスコミに漏らしたことを咎め、天皇の政治利用を図ったと批判し、辞任に追い込んだ事を指す。

もっとも私は政治学者でないから、これは思い違いかも知れないので、専門の方に御教示いただければ幸いである。

というのは、「天皇を政治に利用してはならない」とは、何も戦後だけでなく、戦前もいわれたことである。

そこで「天皇を政治に利用した」という言いがかりを「政治的に逆用」して右翼と軍部は政治を支配し、その典型的な一例が幣原外相の辞任事件で、これが日本の破滅への第一歩だった。

そして彼らは常にこういう逆手を使いつづけた、と私は考えていたからである。

「天皇を政治に利用してはならない」ということを逆用して「政治に利用する」ことも、天皇を政治に利用するという点では変りがないからであり、ある面では、さらに危険だと思うからである。

従って今回の野党の動きは、かつての右翼や軍部と同じように私には見えた。

そしてそれが「利用してはならない」ということを「利用する」という型の二重の虚偽なら、その収拾方法もまた「あったこと」を「なかったこと」にする昔ながらの「二重の虚偽」による方法であった。

私の考えでは、以上のような意味において増原長官はやめるべきでなかったと思う。

そうしないとこれが先例になって、「天皇を政治的に利用した」ということを「政治的に利用」し(言うまでもなく、これも政治的利用である)次々と大臣が実質的に罷免されるのみならず、倒閣さえ可能だというようなことになれば、それは国会自身が、天皇を利用して自らの手で自らの首をしめることになるからである。

私は、戦前の議会は、つぶされたのでなく、上記のような過程で自壊し自滅したのだと思っている。

さらにまた、思い過ごしかも知れぬが、今回のことの背後には「天皇と軍部にはタッチできない」という戦前のタブーが、そのま裏返しになって登場しているように思う。

というのは、天皇との会話の話題がほかのこと(註2)だったら、こういう問題にならなかったと思うからである。――だが、以上は私の「感じ」にすぎない。

(註2)…この増原内奏問題は、昭和天皇の日本の防衛問題に対する発言を政治利用したと野党が攻撃したために起こったので、山本七平としては、天皇の発言が自衛隊以外の話題だったら問題視されなかっただろうと考えていた。

従って私の見方が誤っているのであれば、御教示下されば幸いである。

事実を事実でないと嘘を言えという。

次に嘘を言いましたという第二の嘘をついて、第一の嘘の責任をとってやめろという、そしてやめると与野党も新聞も、これで事件が落着したという。

しかし、これは本質的には今回の事件は事件の終りでなく、ここが事件のはじまりであろう

そこで私は『百人斬り競争』の扱い方でも今回のこの扱い方でも、みなが終ったとしたところを出発点にしたい。

(次回に続く)

【引用元:ある異常体験者の偏見/聖トマスの不信/P140~】


「天皇を政治利用してはならない」ということは、大抵の日本人には共通認識となっていると思いますが、「天皇を政治利用してはならない」ということを逆用して「政治に利用すること」については、それほど警戒していない人も多いのではないでしょうか。

戦前の議会政治を崩壊させる一因となった、この「逆用」について認識をあらため、同じような状態を再現させないよう努めることが重要なのですが、果たして今の議会人にそうした配慮があるかどうか…。

天皇の存在自体が政治的ですので、天皇の政治利用は避けられませんが、その利用にあたっては、伝統やしきたりを重視し、恣意的な利用と見做されないよう気をつけるべきでしょう。

要するに「天皇は政治の世界から敬して遠ざける」という意識を徹底するのが肝要ではないでしょうか。

そういう意味では、小沢幹事長が引き起こした今回の習副主席との会見騒動は、いささか軽率な政治利用だったと言われても仕方がないでしょう。

次回は、マスコミの動きを例に挙げて、二重の虚偽がどのようなものか解説した箇所を紹介していく予定です。ではまた。


【関連記事】
・聖トマスの不信【その1】「事実論」と「議論」の違い
・聖トマスの不信【その2】なぜ日本では、聖トマスが存在しないのか?
・仮に天皇制が廃止されたとしたら、どのような混乱が起こるか?/フランス革命と第一次ユダヤ戦争を振り返る

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