一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

密約&官房機密費公開問題一考【その1】~相互に知らないことが保険の第一歩~

井上孝司の週刊連載コラム」というネットコラムがあります。
私が日頃、愛読し参考とさせていただいているコラムなんですが、どの記事を読んでも殆ど賛成することばかりで、非常に私自身の考えに近いものがあります。

このコラムで、昨今、民主党政権下で話題になっている密約や官房機密費の公開問題が取り上げられていました。

◆Opinion : 密約あるいは機密費に関する徒然 (2010/3/29)

このコラム↑を読んでいて、ふと思い出したのが「日本人とユダヤ人」の記述。

少し長くなりますので、2回に分けて引用紹介していきたいと思います。
今回ご紹介する箇所は、「安全」は”だだ”であると考えがちな日本人の「保険」に対する考え方が、世界のそれと如何に違っているかについて述べた部分です。

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■安全と自由と水のコスト

(~前略)

こういうゴマのハエ(註)だらけの社会に生きつづけてきた国民は、また特にその中のユダヤ人は、だれでも保険ということを考える。

(註)…盗賊・追いはぎなど犯罪者のたとえ。

しかし日本では厳密な意味での保険といった考え方はきわめて稀薄である。
日本人の生命保険に関する考え方は、戦前には貯金の一形態であり、今でもその色彩が強い。

当時は徴兵保険などというのがあったが、これは保険ではなく一種の貯蓄である。
今でも「子供が大学に入るころ満期になるように」などというのもこれと同じである。

これは少しくおかしい。
保険と貯金とは正反対のはずである。

貯蓄は将来の安全確固が前提のはずで、保険は将来の不安が前提のはずだ。

これは大部分の日本人が、大宅壮一氏と同じようにその心底では保険の必要を認めていない(すなわち安全は「ただ」のはずだ)から、従って保険のセールスマンは、これを一種の貯蓄ですよ、利殖ですよ」といって売り込まざるを得なくなる。

いわば正反対のものにすりかえて売っているのであり、おそらく日本ではこれ以外に方法がないであろう。

本当に保険に入るのなら、その前に、家の構造から子供の教育まで、当然、やっていることがあるはずである。

フランスの農民がナポレオン金貨を床下に埋めるのも一つの損害保険、ユダヤ人がダイヤの指輪をはめるのも一つの生命保険である(といってもおわかりにならないであろう。数人の暴漢に襲われたら、指輪をぬいて「ダイヤだぞ」と叫びつつ相手に投げつけ、そのひまに逃げる)。

これは序の口であって、ユダヤ人なら子供のときから、徹底した保険教育をうける。
それがどのようなものか、次の話を読んでいただきたい。

実をいうとこの話は余りしたくないのである。
もう十年以上前だが、私はある日本女性から「ユダヤ人は嫌いだ」とはっきり面と向って言われたことがある。

彼女はアメリカに留学していたが、ある日、偶然、隣家のユダヤ人か実に奇妙なことをするのを見聞してしまった。
このユダヤ人には五人の子供がいた。

ある日その父が息子のひとりに「二人で財産を隠しておこう」といい、百ドルを屋根うらの壁のすき間に押し込み、それを「兄弟にも母にも絶対に言ってはいけない」と言っているのを知ってしまったのである。

何ということでしょう。本当に守銭奴ですわ、親兄弟にまでお金を隠すなんて――あれじゃあ、偏見をもたれるのもあたりまえですわ」。

そんな奴らは人面獣心といった言い方であった。

私には兄弟はいないが、やや似た経験がある。

私の場合はもちろん、この日本女性が見聞したユダヤ人の場合にも、その前に、父親がこんこんと息子に言ってきかせたことがあるはずなのだ。

これが危険の分散すなわち保険の第一歩なのだ
そして、そうするのが家族のためであり、家族の安全のためであって、家族を愛しているからにほかならない

もしかりに家族のひとりがマフィアにでも誘拐されたとしよう。
リンドバーグの子ならいざ知らず、無名のユダヤ人の子がひとり消えても新聞種にもなるまい。
警察がユダヤ人に何をしてくれよう。
地方警察の中にマフィアの手先がいないとだれが保証してくれるであろう(と考えざるを得ないのは残念なことだが――)。

息子は拷問に合い、家の金のありかをすべて白状させられた上で、嬲り殺されてセメントづめにされて海に投げ込まれても、何のニュースにもならないであろう。

だがもし私がこういう目にあったら、家の金のありかなど知らない方が気が楽であろう。

たとえ自分の身の不幸はなげいても、知らないことは本当に知らないのだから、どんな拷問にあっても家族に累を及ぼす心配はない。
私ならその方が気が楽である。

中世以来、何度もくりかえされたゲットー掠奪は、相互に知らないことが保険の第一歩とユダヤ人に教えた。

もちろん、掠奪が終れば、生き残った家族はみなそれぞれ自分だけが知っている場所から金を取り出して、互いに助け合ったことは言うまでもない。

わざと知らせない、わざと知ろうとしない、ということは、守銭奴とは違う行為なのである

だが、「誘拐に対処するよう教育せよ」といえば「それは人間不信を教えることだ」という反論か出るほど平和な日本では、今でも、このことを本当に理解してくれる人は少ないであろう。

まして十数年前では、私はその日本女性に、何も言えなかったのである。

次回へ続く)

【引用元:日本人とユダヤ人/安全と自由と水のコスト/P26~】


日本とそれ以外の国で、保険を巡る考え方がこのように違ってしまったのは、いかに日本が安全な国であったかという証なのでしょう。

海に囲まれ、気の向いたときだけ外国と付き合っていけた時代なら、そうした考え方でも一向に構わないのでしょうが、残念ながら現代ではそうも行きません。

むしろ、そうした考え方のまま、外国と付き合うことは危険ですらある。

私は左翼の主張を見るに付け、その主張の背景に、依然として根強くこうした考え方に囚われているものがあるように思えてなりません。

左翼の理想的な主張が、世間知らずのお坊ちゃんのそれに見えてしまうのも、こうした考え方が基礎にあるからなのでしょうね。

そして、今回ご紹介した部分で一番重要なのは、「相互に知らないことが、保険の第一歩」という”考え方”が世界では存在するということを我々日本人が認識することではないでしょうか。

さて、次回、ようやく本題である密約や官房機密費の公開問題に関連すると私が思う箇所を紹介していくつもりです。

ではまた。


【関連記事】
◆密約&官房機密費公開問題一考【その2】~秘密を守るということがどういうことか知らない日本人~


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