今回、ご紹介する引用部分は、密約や官房機密費の公開問題に対して多くの日本人が見せた「反応」と照らしあわせてみていただきたいと思います。
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
(1971/09)
イザヤ・ベンダサンIsaiah Ben-Dasan
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(前回の続き)
話は横道にそれるが、これはまた「日本人は秘密を守れない」という通説に通ずるものがある。
確かに日本人には「秘密=罪悪」といった意識があり、すべて「腹蔵なく」話さねば気が休まらない。
と同時に、秘密を守るということがどういうことか知らない。
アメリカ人はずいぶんアケッピロゲに見えるが、守るべき秘密は正確に守る。
良い例が原爆製造である。
日本では、造船所のまわりによしずを張ったり、軍需工場の近くに来ると汽車の窓をしめさせたりしていた――何とナイーブな!
アメリカはB29の写真や設計図まで平然と公表していた。
だが原爆の製造は完全に秘密を守り通していた。
私は昭和十六年に日本を去り、二十年の一月に再び日本へ来た。
上陸地点は伊豆半島で、三月・五月の大空襲を東京都民と共に経験した。
もっとも、神田のニコライ堂は、アメリカのギリシア正教徒の要請と、あの丸屋根が空中写真の測量の原点の一つとなっていたため、付近一帯は絶対に爆撃されないことになっていたので、大体この付近にいて主として一般民衆の戦争への態度を調べたわけだが、日本人の口の軽さ、言う必要のないことまでたのまれなくても言う態度は、あの大戦争の最中にも少しも変らなかった。
私より前に上陸していたベイカー氏(彼はその後もこういった職務に精励しすぎて、今では精神病院に隠退しているから、もう本名を書いても差し支えあるまい)などは半ばあきれて、これば逆謀略ではないかと本気で考えていた。
「腹をわって話す」
「口でポンポン言う」
「腹はいい」
「竹を割ったような性格」
こう言った一面がない日本人は、ほとんどいないと言ってよい。
従って相手に気をゆるしさえすれば、何もかも話してしまう。
しかし、相手を信用し切るということと、何もかも話すこととは別なのである。
話したため相手に非常な迷惑をかけることはもちろんある。
従って、相手を信用し切っているが故に秘密にしておくことがあっても少しも不思議でないのだが、この論理は日本人には通用しない。
個人の安全も一国一民族の安全保障も、原則は同じであろう。
しかし、日本では、牡蠣に果して殻は必要なりや否やで始まるから、知らせないこと、知らないことも、安全には必要だなどという議論は問題にされない。
さらに防衛費などというものは一種の損害保険で、「掛け捨て」になったときが一番ありがたいのだ、ということも(戦前戦後を通じて)、日本では通用しない。
戦前の軍人に「あなた方は、役に立たないことが(すなわち無用の長物であることが)最大の御奉公なのだ」などと言ったら、それこそ「無礼者め」であったろう。
そして咢堂翁の言った「平時の軍人は晴天の唐傘」という言葉も、戦後の「税金泥棒」も、実は、同じ論理の帰結の別の表現にすぎない。
とすれば敗戦の悲劇も、戦後の議論の混乱も、「安全と水とは無料が当然」という生得の考え方に発している。
いや、これは考え方といったような生やさしいものではない。
もう、問答無用の自明の公理なのである。
従って、いかに効率的に、低コストで安全を計るかなどという考えは、その考え方自体が論外になってくる。
自衛隊が災害牧前に出動すると、急にその評価が高まり、新聞の扱い方まで暖かくなる。
いわば、天災に対処するものなら意義はあるが、他の面では、全く無意義かつ有害とされるのである。
ああ、日本人は何と幸福な民族であったことだろう。
自己の安全に、収入の大部分をさかねばならなかった民と、安全と水は無料で手に入ると信じ切れる状態におかれた民と、――私は、ただ溜息が出てくるだけである。
だが、余りに恵まれるということは、日本人がよく言うように「過ぎたるは及ばざるが如し」で、特にはかえって不幸を招く。
深窓に育った令嬢や、過保護の青少年は、何かちょっとしたことに出会うと、すぐに思いつめてしまう。
大学受験に失敗して自殺したなどはその典型的な一例であろうし、いわゆる一家心中も、多くはこの部類に入る。
ユダヤ人などは、もし思いつめていたら、とうの昔に、一家心中ならぬ民族心中をやらねばならなかったであろう。
考えてみれば、太平洋戦争の末期における「一億玉砕」の主張は、思いつめた「民族心中」の思考かも知れない。
余りに恵まれた民族が、「古今未曾有」の事態に接した場合、こうなっても不思議はあるまい。
(後略~)
【引用元:日本人とユダヤ人/安全と自由と水のコスト/P29~】
密約や官房機密費に関して云えば、もちろん、一定期間の後、情報を公開することも必要でしょうが、こと外交交渉に関してはとりわけ慎重な配慮をすべきでしょう。
ましてや、民主党のように、前政権を非難する為の具として利用することは、決していい結果をもたらさないでしょう。
(それでいて、民主党は自らの官房機密費については公開しないようですから、ご都合主義にも程があります。)
しかし、民主党の対応及び世間の反応というのは、まさにベンダサンが上記記述のなかで指摘した、日本人ならではの”思考様式”を背景にしているのではないでしょうか。
その”思考様式”に縛られ、それがもたらすマイナス面に気付かない。
そして、その思考様式を補完・補強するために、いろいろな理屈やタテマエが取って付けられる。
情報公開が民主主義の根幹だから…とか、知る権利を阻害しているから…とかいうのも、そのもっともらしい理屈やタテマエの例でしょう。
しかし、民主主義の国だと言っても、全てが情報公開されている国など世界のどこにあるのでしょうか?
現実はと云えば、アメリカのようにホンネとタテマエを使い分けている国ばかりなのに…。
海外のタテマエを信じて、日本”だけ”ホンネまでさらけ出すようなお馬鹿なことになっていなければ良いのですが…。
今回の公開問題は、日本人の「安全」意識が世界のそれと如何にずれているかを、改めて如実に示しているように思えてなりません。
せめて、世界における秘密を守ることの意味と、日本における意味の「違い」を認識する必要があるのではないでしょうか。
その「違い」を認識できないままでは、日本の安全を図ることなど到底おぼつかないでしょう。
こうした「違い」に気付かないのも、いい育ちのお坊ちゃんたる”証拠”なのかもしれません。
ちなみに、私は、特に左翼の言論にそうした「違い」もわきまえない、悪い意味での”イノセンスさ”というものを濃厚に感じてならないのですが…。
【関連記事】
・密約&官房機密費公開問題一考【その1】~相互に知らないことが保険の第一歩~
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