一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

言霊(コトダマ)②「なぜ日本人は契約下手なのか」

前回①の続き。
前回、護憲派の人たちが平和憲法を信じている理由に、言霊(コトダマ)の影響もあることを紹介しましたが、今回はその続きです。

よく日本人が契約下手だと言われていますが、なぜそうなのかを解説してくれています。以下、井沢元彦逆説の日本史〈3 古代言霊編〉平安建都と万葉集の謎より引用していきましょう。

日本人は「契約」というものが下手だという世界的な定評がある。
これは西洋や中近東の人々と比べてだけではなく、同じアジアの中で中国人や韓国人に比べても下手である。 なぜ、そうなのか。
 それは、日本人の性質の中に、その原因があると考えるのが自然である。もし中国、韓国、日本の三国の人々すべてが契約下手なら「儒教」のせいということも考えられるが、東アジアの中でも日本だけが下手なのだから、やはりそれは日本人固有の特質に基づく理由があると考えた方がいいだろう。こう言えば、もうおわかりと思うが、つまり、これもコトダマが原因なのである。

 (中略)

 前節で、日本人は「なぜ契約が下手なのか」という問題提起をした。答えは実はこの辺にある。
 日本人が日本人同士と契約する場合と外国人(アジア人も含む)と契約する場合、一番違うのはどこか。 それは契約書の分厚さである。

 (中略)

 なぜ、そうなるのか。あるいは、外国の契約書はなぜそうならないのか?
 日本の契約書には、外国の契約書には無い「誠意条項」というものがある。
 何も難しい条項ではない。簡単に言えば「契約に関して何かトラブルが起きた際は、双方誠意をもって処理する」という条項のことだ。しかし、これを見ると外国人は笑うか不思議がる。トラブルが起きた際に、「双方が誠意をもって処理する」保証がどこにあるのか? トラブルというのは、双方が対立した時に起こるものである。敵意や憎悪の中で「誠意」が保たれるはずはない--外国人はこのように考える。
 理屈で考えれば、その通りである。
 日本人の考えは、前述した「頭取」の考え方のように、非論理的で具体性がない。

 (中略) 

 外国の契約書はなぜ分厚いのか、ということを考える有力なヒントかおる。
 それは、日本のビジネスマンや企業が、海外で契約を交わす際に起こす、典型的なミスでもある。
 それは実は「ペナルティ(罰則)」の付け忘れなのだ。
 たとえば日本人企業家が外国人を現地で雇う際に、その従業員が仕事をサボったり会社に損害を与えたりする可能性もあるということを、まず考えない。だから「不良社員」にいいようにやられた挙句、罰則規定がなくて外国人弁護士に笑われるということにもなる。
 外国の契約書が分厚いのは、日本人のように「誠意条項」に頼らずに、あらゆるトラブルの可能性を指摘し、その場合の対策まで書き出してあるからなのである。

 (中略)

と、ここまで書けば、なぜ日本の契約書は薄っぺらになってしまうのか、あるいは、やり手のビジネスマンがペナルティの付け忘れなどという、契約社今では初歩的なミスを犯すのか--この謎も賢明なる読者には、理解できるはずである。
 これもコトダマなのだ。
 つまりコトダマの世界では、縁起の悪いこと、不吉なこと、起こって欲しくないことは、できるだけ言及しないで済まそうという意識が働く。
 「パイプラインが爆発した場合は--」などと書くと、そう書くことによって(つまりこれもコトアゲの一種)本当にそんな事態が起こりそうな気がしてしまう。
 だから無意識のうちに、そういう「想定」を排除してしまう。問題はそれがコトダマ信仰の影響であることを、自覚している人がほとんどいないことだ。

 もちろん少数の例外者はいる。
 「桓武天皇と平安京編」で、私は作家小松左京氏の次のような発言を紹介した。
 「弥生時代ぐらいからの判断の形式や心情というのが、つぶされずにいままで残っていて、今の社会的選択に影響を与えている」
 失礼な言い方かもしれないが、おそらく大多数の読者はこの言葉の本当の意味が、理解できなかったのではないだろうか。
 実は、こういうことだったのである。


コトダマの影響が、契約下手という形で現れていると分析しているのはなかなか面白い意見だと思いませんか。私は、こういう変った切り口の意見の見るとつい感心してしまいます。

井沢元彦の主張するようにコトダマの影響もあるかと思いますが、私は、日本人が契約下手なのは、日本の社会が、お互いを信用できる「高信頼社会」であることの裏返しなのではないかと思っています。それを外国に行っても、同じ日本人に対するように契約を結ぼうとするから失敗するのではないでしょうかねぇ。

契約下手から話がずれますが、日本人が高信頼な「世の中」を築き上げてきた背景には、「人は話し合えばわかる」「所詮同じ人間じゃねえか」という根強い固定観念があるような気がします。

日本人とユダヤ人」では、そういうものを「日本教」と呼びあらわしていると私は勝手ながら解釈している(違ってたらゴメンナサイ)のですが、それを示唆しているのではないかと思われる記述を二つ引用してみます。

日本教の中心にあるのは、前章でものべたように神概念ではなく、「人間」という概念なのだ。従って日本教の『創世記』の現代的表白に次のように書かれていても不思議ではない。

 人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりも猶住みにくかろう。
 越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、くつろげて、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世をのどかにし、人の心を豊かにするが故に尊い。

草枕』を読まずに日本を語ってはならぬ。新聞記者などで、日本に二、三年いて、いっぱし日本通のような顔をした人間には、私はいつもそう言うことにしている。(以下略)



漱石、この西欧の古典、日本の古典、中国の古典、仏典までを自由自在に読みこなし、自分の作品の中に縦横に駆使しえた同時代の世界最高の知識人が到達したのは、「人の世を作ったのは人だ」という、日本教の古来から一貫した根元的な考え方である。この世界には猫は住めても神は住めない。皮肉なようだが、旧約聖書には猫という言葉が全く出てこないのと対蹠的である。
猫は主人公だけれど神のいない世界、神が主人公だが猫はいない世界、この二つの世界に同時に住めると思う人がいたら狂人であろう。
【上記二つとも日本人とユダヤ人日本教徒・ユダヤ教徒の章より引用】


最後の猫と神の対比は、何か日本の社会と西欧の社会との対比をうまく比喩しているんじゃないでしょうか。
そして、この二つの世界に同時に住めると信じ込んでいる人たちが、トラブルを起こしたり相互誤解の種になっているような気がしてなりません。
そういう人たちの一例を挙げると、護憲派や左翼の人たちでしょうね。やっぱり。

次回③では、日本の憲法は「祝詞」であることを紹介する予定です。では。


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コメント

わかりやすい!

>欧米の結婚式の誓いが「契約」であるのに対し、日本の誓いは「祝詞」に過ぎないと。
>日本の場合は、結婚に契約の概念がないのかもしれません。

まさに、そのご発言ですね。
一歩進めると、日本の場合も、法的には「契約」なんですが、「契約の結び方」の違いなんだろうということです。

西欧は「契約書を交わしてからベッドイン」。
日本は「ベッドインした後に契約書締結」。

こういえばよかったかな・・・。

  • 2008/04/12(土) 05:00:39 |
  • URL |
  • わくわく44 #-
  • [編集]

仮)山田二郎さん、東西さんとの議論お疲れ様です。ほんと、普通が一番ですね。

わくわく44さん、面白い説明ありがとうございます。何となく違いがわかったようなわからないような…(汗)。
ちなみに、次回紹介しようと思っていたのですが、井沢元彦も結婚を例に挙げて日本と欧米の違いを説明していましたよ。
欧米の結婚式の誓いが「契約」であるのに対し、日本の誓いは「祝詞」に過ぎないと。
日本の場合は、結婚に契約の概念がないのかもしれません。

  • 2008/04/11(金) 20:10:14 |
  • URL |
  • 一知半解男 #-
  • [編集]

契約の概念

民法においては、信義則の原則が取られています。これは「約束は守ろうね」とか「信頼を崩さない」という意味です。

契約の概念を婚姻で例えると

西欧では、婚姻届を出して、結婚指輪を交わして、はじめて夫婦となり、一緒に生活をする。
日本では、同棲している2人が、「正式な夫婦」となるために、婚姻届を出して、結婚指輪を交わす。

披露宴が先か、子作りが先か、という違いですね。
日本と西欧の「契約の概念の違い」はそこにありますから、確かに理解はされないでしょう。

  • 2008/04/10(木) 21:33:10 |
  • URL |
  • わくわく44 #-
  • [編集]

普通が一番ですよ。

話しのネタふりなら突飛な見解も楽しいですけど、思考方法の根底がファンタジーだと疲れますよ。

今もくろねこさんとこで、東西君がお馬鹿経営学を披露(私は疲労)してたりします。
http://blog.goo.ne.jp/kuroneko0158/
私も、結構馬鹿左翼思考にかぶれてましたが、ここまでの馬鹿理論は見た事がありません。

  • 2008/04/10(木) 19:23:34 |
  • URL |
  • 仮)山田二郎 #-
  • [編集]

robitaさん、コメントありがとうございます。
山本七平は、夏目漱石をかなり評価しています。今後もいろいろ紹介して行こうと思ってますので宜しくデス。

仮)山田二郎さん、確かに私の意見は誰でも考え付くと思うのですが、日本以外にも「高信頼な社会」があって、その住民が契約下手でなかったとしたら、コトダマの影響も証明できるかもしれません。そういった外国があるのかわからないのですけど。

  • 2008/04/10(木) 19:10:50 |
  • URL |
  • 一知半解男 #-
  • [編集]

面白いけど、ちょっと強引かな。

後半以降にある一知半解さん見解等の方が、すんなり受け入れられますね。

  • 2008/04/10(木) 14:55:18 |
  • URL |
  • 仮)山田二郎 #-
  • [編集]

こんにちわ

興味深く、納得のいく話ですね。
私は山本七平も井沢元彦も読んだことがないのですが、一知半解男さんの記事でずいぶんと色々なことがわかります。
「ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る」というところは、なるほど!と思いました。

  • 2008/04/10(木) 12:09:24 |
  • URL |
  • robita #-
  • [編集]

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Author:一知半解
「一知半解知らずに劣れり」な自分ではありますが、「物言わぬは腹ふくるるわざなり」…と、かの兼好法師も仰っておりますので、ワタクシもブログでコソーリとモノ申します。
一知半解なるがゆえに、自らの言葉で恥を晒すのを控え、主に山本七平の言葉を借用しつつ書き綴ってゆきたいと思ふのでアリマス。宜しくメカドック!!
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