一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

「地震ナマズ説」がはびこる理由/~「諸悪の根源」視することの愚~

利権や既得権益を「諸悪の根源」視する思考というのは、反原発派の人たちに見られる典型的な考え方ですが、果たして利権そのものが必ずしも悪といえるでしょうか?

その利権の方向性が社会益と合致しているならば、悪どころか、むしろ善であると見なしても良いでしょう。

もちろん、その利権が時代の変遷と共に、社会益と乖離していくような場合もあります。
ある意味、原子力利権もその陥穽に陥っているような処もあります。
世界で唯一、高速増殖炉の開発にこだわり続けている点などは、まさにその悪弊が顕れているように思います。

しかしながら、そうだとしてもいままで日本の経済発展の原動力となってきた事実・功績までを全否定してしまうことは間違いです。

正すべき処は正し、修正すべき点は修正する。
むやみやたらに原子力を全否定せず、判明したリスクに適切に対応し、長所はそのまま活かし続ける。
そのような姿勢が必要だと思います。

さて、そこで今日の本題ですが、この「利権や既得権益をひたすら敵視し”諸悪の根源”視する考え方」というのは、最初に述べたように反原発派の人たちが捉われ易い”考え方”であるわけですが、この考え方の問題点について山本七平岸田秀が対談している箇所を以下引用紹介したいと思います。

日本人と「日本病」について (文春文庫)日本人と「日本病」について (文春文庫)
(1996/05)
岸田 秀、山本 七平 他

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■現代日本教信仰箇条

(~前略)

山本:今、お話にでた社会の中に不自然をみて、それを悪であるとする発想は、人間は善であるという性善説と表裏の関係にありますね。
人間は善い、自分は善い、しかし社会が悪いのだと。


岸田:つまり、その場合、社会の悪はどこから来るのかということまでは分析しない
今、お話にでた社会悪の構造的原因まで追究しないことが多いですね。

山本:そしてナマズを持ち出す。

小室直樹さんが地震ナマズ説という比喩を使っているんですが、地震が起きるのはナマズが暴れるからだ、ナマズが諸悪の根源である、ナマズを殺せばすべてが解決するという発想ですね。

日本人は特にこの発想に陥りやすい
だから「諸悪の根源」は絶えず必要なんだそうです。


岸田:それで日本の捕り物には、必ず悪人が登場する。
そして悪人を殺すか、悪人が改心するかすれば、一件落着、めでたし、めでたしです。

悪人がいるから悪が生じる、世の中が善人ばかりなら悪は起きないという抜きがたい前提がある。

悪が生じるのは、社会組織の何らかの欠陥に原因があるのではなくて、自分以外の誰かが悪人で、その悪人が「人間性」を失って悪いことをするからです。

いや、もっとも西欧にもユダヤ人を悪人に仕立てて、虐待した例があるから、日本人特有の幻想であるとまでは言いきれないんでしょうが

山本:ただ、西欧社会のスケープ・ゴートというのは、羊そのものに罪はないという意識が、スケープ・ゴートを仕立てる側にあるんですね。

羊は元来、罪とは無関係です。
そこで自分たちの罪を身替わりの羊に転嫁しているという自覚がある。

第ニイザヤ書」の有名な「苦難のしもべ」にしても、新約聖書のキリストにしても、罪のない人間として設定されているからこそ、人間の罪をすべて背負って処刑されたりすることができる。

ところが、日本の場合は、諸悪の根源を殺しても、それが自分たちの罪を転嫁されて身替わりになって死んだのだという痛みがともなわないでしょう。

何しろ″諸悪の根源″なんですから……。


岸田:罪をなすりつけている意識がまるでないわけだ。

山本:新約聖書には、善玉、悪玉という意味での悪人という存在は出てこないんですよ。
人間はすべて、いわば「善悪人」です。


岸田:ところが、日本の社会が悪人を必要とするのは、皆が自分を善人だと考えるからであって、自分の内なる悪に無自覚なためですね。

自分の内なる悪に無自覚だから、他人にそれをなすりつけなければならなくなる
ほんとうの悪人というのがいるとすれば、それは、他人を悪人に仕上てあげる人なんですよね。
そうしているという自覚なしに

ぼくに言わせれば、あいつは悪人だと言って正義を振りかざす奴がいちばんたちのわるい悪人です。

それにしても、なぜ日本人はこうも簡単に自分が善人であると思いこめるのか。

山本:これも幻想だな。

岸田:大いなる幻想、赤ん坊善人説につらなる幻想ですよ。
ぼくは以前、主観と客観は逆比例する、という文章を書いたことがあるんです。

たとえば、自分が思いやりの深い人だと思いこんでいる人間がいるとします。
自分は他人の気持ちをよく理解し、汲みとってやっていると、日頃考えているわけです。

すると、彼は自分が人の心を理解せず、人を傷つけるケースがあってもそれに盲目になる。
自分を思いやりの深い人間と思っている者は、じつは自分が人を傷つけている事実に盲目である者にすぎない

逆に、真に思いやりのある人間というのは、自分はつねづね、人の心を傷つけてしまっている事実をよく知っているんです。

主観と客観の関係というのはそんなふうに逆比例する。
それを、″思考の全能″ではないけれど、主観イコール客観と置いてしまうから恐いんです。

山本:パウロにみられる「罪」の意識というのは″わが欲する善は行わず″″わが欲せざる悪を行う″である。

この罪のある人間から、どうやって脱してゆけるのかという問題意識なんですね。

人間は自分が欲する善は絶対に行わないものだという前提に立つとしますと、もし善意があるとすれば、自分がそれを実行していないという意識としてしかないわけです。

自分が欲していないことばかり実行しているという意識ですね。

日本では善意もそのまま実行してしまう
これは明治維新より古い発想だから根が強いですな。


岸田:そんな言いかたをすると、ひねくれていると思われますよ。(笑)

山本:そうなんです。

「善意が通らない」と言うから、そんな善意が通ったら社会は大変なことになるといえば、憤慨されますから。

戦後は特に自分が善で社会が悪だという単純形式で来ておりますから。


岸田:そこで、この悪い社会をぶっつぶせばよい、と。
革命もまた性善説を前提にしているんですな。


■日本は穢土

山本:と同時に、どこかの国でそれが成就しているという錯覚を絶えず抱きます。
だから、成就していないことが証明されてくると、深く幻滅する。

中越戦争などは好例ですね。


岸田:幻滅しても懲りずに恋愛する惚れっぽい女にかぎって、惚れられたほうが迷惑している事実に気づかない。

だから、この幻滅の構図は、片思いの女がふられたときと似ていますね。
あんなに自殺をするほど愛していたのに、なぜ受け容れてやらなかったのか、と、振ったほうが非難される。

振れば自殺するほど惚れられるなんて、惚れられるほうにすれば、えらい迷惑なんですが、相手にしてやらないとなぜか薄情だときめつけられる。

山本:そうだ、この間ニューヨークで、日本人留学生が、アメリカの女性を殺した事件。
相手の女性はきっと、日本人研究かなんかしていたに過ぎないんでしょう。(笑)


岸田:日本の男性は一途に、純粋に思い詰めた。
日本では同情が集まるかもしれないがアメリカでは無理ですね。

しかし、日本人はどうして惚れっぽいのかなあ。ドイツに惚れたり、アメリカに惚れたり、北京に惚れたり、ベトナムに惚れたり、忙しいことです。

どこかほかの国に次々と惚れるというのは、つねに日本の現実を汚いと感じているからでしょうか。

山本:そうですね。やはり浄土希求。日本は穢土で、向こうが浄土。

そういえば東の方にはあまり浄土がないですねえ。
西方浄土でなくてはいけないんでしょう。

そして汚れた日本に居ても、自分は浄土を希求し、穢土である日本を批判するがゆえに純粋であると考える


岸田:自分の純粋さを裏付けるために、どこかの浄土に惚れこむんですな。

山本:だから、あの国は浄土でないなどと、かりそめにも指摘してはいけないんだ。

岸田:惚れている女の悪口は禁句です。アバタをアバタと指摘してはいけない。(笑)

山本:しかし、幻滅さえしなければ「振られてもなお」という心情はあります。

ベトナムを懲罰したように、かつて毛沢東は日本にも懲罰を下すべぎだと発言したという話がもし伝わったとしたら、心酔者はベトナム人と違ってひたすら反省したんじゃないですか。

総理大臣以下、全員が悪いくらいのことを言いかねない。


岸田:東京裁判を盲目的に認めた心理と同じですね。

東条英機らが靖国神社に祀られていたことが問題になりましたけど、戦犯というのはつまりアメリカの裁判で有罪になったんですよ。

彼ら指導者の誤りによって、多くの日本人が悲惨な目にあったという罪で日本人が彼らを裁いたのならば、たしかに靖国神社に祀るのは問題があります。

しかし、日本の基準ではまだ犯罪者であるかどうか決まっていないんです。

自分では裁判をせず、アメリカの裁判で犯罪者とされたその基準を盲目的に受け容れているわけですね。

彼らを犯罪者と見なすというのなら、日本の裁判でやるべきです。
実際、彼らは裁判にかけられてしかるべきほどの過ちを犯しています。

しかし、日本の裁判にかけていない以上、日本人が彼らを犯罪者扱いするのはおかしい

別に、彼らを弁護する気はありませんがね。

しかし、どんな国家でも、その国民一般の平均水準以上の指導者を持つことはできないんですよ。

たまたまその水準を抜きん出た賢明な指導者がいて、国が間違った道にはまり込もうとしているのに気づいて押しとどめようとしたら、暗殺されるか、暗殺されないまでも失脚させられます

そして国民は、国民の気に喰わぬことをしようとした者が暗殺されたことを拍手喝采して喜ぶでしょう。

みんなの拍手喝采が得られることなら、どんなことでもやるという連中には、いつだって事欠きませんから、暗殺者はいくらでもいます。

もし、当時、東条が勇断をふるい、アメリカと妥協して、大陸撤兵を決意したりしていたら、確実にテロで殺されていたでしょうね。

東条なんて、気の小さい平凡な男で、救国の英雄といった柄でも、極悪人といった柄でもなかったと思いますが、評価をガラリと変えたのは国民の方でね。

山本:そのことに誰も疑問を感じないところがおもしろいな。

岸田:簡単に百八十度転換できるわけです。

戦争中は非国民という諸悪の根源をつくり、戦後は、かつて最高の善人、純粋人間であった軍人を、一握りの軍国主義者という名の悪人にする

しかも、その転換の奇妙さ不思議さに誰も気づいていない。

山本:「だまされた」という前提をつくるからでしょう。

一億全員が詐欺にかかった。
善人はだまされやすいんです。(笑)

善意を百パーセント通すには神にならざるを得ないのに、現実は、善意の通らない社会は悪いという考え方が支配的ですからね。


岸田:一度、問題をひっくり返して考えるといいんですよ。
なぜ、社会に通らない考えを善意と考えるのか、と。

通らないのは、「善意」の側にそれだけの理由があるのではないか、と。

山本:そう、そう。それこそが真に問うことの第一歩になるはずです。

(後略~)

【引用元:日本人と「日本病」について/純粋信仰/P111~】


どうも反原発派や左翼の主張とは、上記の「善意」としか思えないのですよねぇ。
その「善意」が通ってしまったら大変なことになるかもしれない、という”恐れ”がまったく見られない。

利権や既得権益という”諸悪の根源”を抹殺しさえすれば、物事が全て解決するかの如き幻想に捉われているとしか思えない。
左翼が実際に権力を握って物事を動かすようになると殆ど失敗してしまうのは、「自らの内なる悪に無自覚」な善人だからじゃないでしょうか。

利権や既得権益を敵視し叩くことが、「地震の原因をナマズに求めるような滑稽な事」にならないか?
実際の問題解決にあたっては、そうした自問自答の姿勢がまず求められるのではないでしょうかねぇ。
そうしないと、諸悪の根源を叩いて自らの意図を達成しようとする扇動者に利用されるだけの結果におわるでしょう。

最後にカエサルの名言を引用して終わります。

■どんなに悪い事例とされていることであっても、それがはじめられたそもそもの動機は、 善意によるものであった。


【関連記事】
◆内なる「悪」に無自覚な日本人/性善説がもたらす影響とは?
◆日本は穢土/自国を貶める人間は、自分が「きれい」であることを証明したいだけ。


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コメント

花春さん、KYさんへ

コメントありがとうございます。レスが遅くてすみません。

>花春さん

>原発利権があればクリーンエネルギー利権もあると考えるのが普通なのに・・・

ですよね。
余りにも、おのれに都合よく考えすぎでしょう。


>KYさん

今回の決定を見ると、菅直人って所詮市民活動家どまりの人なんだなぁとつくづく思いますね。
世間の動向をみて反応するだけじゃ、主体性もなにもあったもんじゃない。
ルーピー鳩山は、能無しでしたが彼なりの理想はあったけど、菅は首相で居ることだけしか考えていない。
「木を見て森を見ず」そのまんまの状態ですよね。
しかし、これで単純に喜んでいるのは真性の馬鹿ですね。お灸層健在なり、といったところでしょうか。
このままでは、今年の夏はホントにやばそうです。

  • 2011/05/08(日) 12:59:41 |
  • URL |
  • 一知半解 #f2BEFQoE
  • [編集]

「諸悪の根源理論」で首相が行動すると・・・

 理念も綱領も無い政治屋の掃き溜め集団が政権与党を担当したばかりに、日本は未曾有の混乱に突き落とされた格好ですが、彼らの暴走・狂乱振りは止まるところを知らず、今度は「浜岡原発の全ての原子炉を停止しろ」と、またも無茶な要求を空き缶首相は中部電力に対して行いました。「活断層にあるから」とか「国民の安全を考慮して」と尤もらしい、とさえ言えない屁理屈を振り回していますが、「自称」市民団体の理屈と同じ観点からの要請としか思えません。同じ活断層の上にある柏崎刈羽原発は何故スルーなんでしょうね?「原発さえ止めれば全て解決する」と言うほど事態は単純ではないはずですが。これから夏の電力需要期に向かうのに、日本の活力をそぎ落とそうとする意図しか感じません。空き缶は口を開けば「省エネと節電で乗り切れる」と抜かしていますが、原発1基の抜けた穴をそれだけで埋められると本気で思っているのでしょうか?中部地方の住民(特に入院患者)と産業界に首を括れと脅しているようなものです。
 反原発カルト信者は「我が意を得たり」と狂喜乱舞していることでしょうが、電力不足が「弱者」にどのような仕打ちをもたらすか考えたことがあるのでしょうか?「諸悪の根源理論」というものが場合によっては非人道的な結果に繋がりかねないと感じた空き缶首相の暴言でした。

  • 2011/05/06(金) 20:08:55 |
  • URL |
  • KY #mMgziZAk
  • [編集]

原発利権があればクリーンエネルギー利権もあると考えるのが普通なのに・・・

  • 2011/05/06(金) 09:09:36 |
  • URL |
  • 花春 #-
  • [編集]

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「一知半解知らずに劣れり」な自分ではありますが、「物言わぬは腹ふくるるわざなり」…と、かの兼好法師も仰っておりますので、ワタクシもブログでコソーリとモノ申します。
一知半解なるがゆえに、自らの言葉で恥を晒すのを控え、主に山本七平の言葉を借用しつつ書き綴ってゆきたいと思ふのでアリマス。宜しくメカドック!!
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