一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

山本七平に学ぶ「虚報の見抜き方」

前回のエントリーで、南京大虐殺について取り上げましたが、この問題を論ずるとき、必ずといっていいほど問題となるのが資料や証言の扱いでしょう。

そこで今日は、山本七平の「私の中の日本軍」から、虚報の見分け方に関する記述を抜粋して紹介していきましょう。かなり参考になると思いますよ。

いわゆる「南京大虐殺」について、戦後にいろいろと言いている人に共通する点は、その人たち自体が、すでに「クルマ時代」「新幹線時代」の人なので、二本足しかない集団の動き方の本当の実感が全然つかめず、そのため、想像に絶する突拍子もないことを平然と事実だと言っており、本多記者の「殺人ゲーム」は、実はそういったもののほんの一例にすぎないのだから、まずその感覚を排除しなければ、実態はつかめないであろう。

現代のスピード感にマッチする記事があれば、そのことだけでそれは虚報といえる。

次に大本営的・新聞的な「一斉に突入! 敵を急追!敵、算を乱して壊走」といった表現はすべて振りはらわないとやはり実態はつかめない

「戦場は盲人のプロレス」と言った人がいたが、これは戦場の一つの実感である。お互い全く相手の位置も実体も実力も出方も皆目わからない。「急追・猛追」などをしたら、どんな陥穽に陥るかわからないし、第一、補給がつづかない。

従ってすべての行動は、いわば盲人同様にまず「手さぐり」ではじまるわけである。双方ともに手さぐりだから、その動きは実にのろく、にぶく、絶対にさっそうとはいえない、これはいずれの場合でも同じである。面白いもので、いさましげに書かれた虚報にも、ついついこの実体は、顔を見せてしまう

たとえば「百人斬り競争」のそもそもの出だしが

「常熟、無錫間の四十キロを六日間で踏破した○○部隊の快速は、これと同一の距離の無錫、常州間をたった三日間で突破した。まさに神速、快進撃、その第一線に立つ片桐部隊に『百人斬り競争』をくわだてた二名の青年将校がある」

であって、この「神速」なるものが、実は一日平均わずか七千メートル、車なら十分たらずの距離、それを六日つづけて行くのだから、この「快進撃」の実態がどれくらいひどいノロノロ運転かは想像がつくであろう。

その速度ならぬ遅度は、自分で歩いて実感されればよいわけだが、日本軍の基準ならこれは確かに快進撃であろう。そしてこの遅度の大きな原因の一つが「さぐりあい」である。

私の中の日本軍《下》「最後の言葉」の章より引用】


まず虚報の見抜き方として、現代の感覚を捨て去って判断することや、大本営的・新聞的表現を排除する必要があるということですね。続いて紹介するのは「ヒトラーの原則」です。

虚報には常に一つの詐術がある。

それは何かを記述せず、故意にはぶいているのである。そしてそれは常に、それを記述すれば「虚報であること」がばれてしまう「何か」なのである。

本多記者の「殺人ゲーム」では、ベンダサン氏が指摘したように武器が欠落しており、武器を記入するとこの文章が成り立たなくなるわけだが、浅海特派員の「百人斬り競争」でも、ある言葉を故意に欠落させてあるのである。それは「目的語」である。

すなわち「何を」斬ったかが書いてない。
最初にただ一ヵ所「敵」という言葉が出てくる。しかし「敵」という言葉は、「敵国」「敵国人」「敵性人種」「好敵」「政敵」等、非常に意味の広い言葉で、必ずしも「小銃・手榴弾・銃剣等で武装した完全軍装の正規軍兵士=戦闘員」を意味しない。

しかもこの非常にあいまいな言葉は一ヵ所だけで、あとはすべて「目的語」がなく、従って一体全体「何を斬った」のかわからないのである。

もちろん・すなわち「戦闘中ノ行為」の記述であることは疑いないが、斬った相手が戦闘員なのか非戦闘員なのか、一切わからない。

なぜそういう書き方をしたか。そうしないと「虚報」であることが、一目瞭然になってしまうからである。それは、記事にはっきりと「目的語」を挿入してみれば、だれにでもわかる。次にそれを例示しよう。〔 〕内が「目的語」の挿入で、この部分はもちろん原文にはない。

〈無錫進発後、向井少尉は鉄道線路廿六・七キロの線を大移動しつつ前進、野田少尉は鉄道線路に沿うて前進することになり、一旦二人は別れ、出発の翌朝、野田少尉は無錫を距るハキロの無名部落で敵トーチカに突進し、四名の敵〔小銃・手榴弾等で武装した戦闘員、完全軍装の正規軍兵士〕を斬って先陣の名乗りをあげ、これを聞いた向井少尉は、奮然起ってその夜横林鎮の敵陣に部下とともに躍り込み五十五名〔の完全軍装の戦闘員=正規軍兵士〕を斬り伏せた。

その後、野田少尉は横林鎮で九名〔の完全軍装の戦闘員=正規軍兵士を〕、威関鎮で六名〔の完全軍装の戦闘員=正規軍兵士を〕、廿九日常州駅で六名〔の完全軍装の戦闘員=正規軍兵士を〕、合計廿五名〔の完全軍装の戦闘員=正規軍兵士〕を斬り、向井少尉はその後常州駅付近で四名〔の完全軍装の戦闘員=正規軍兵士を〕斬り、記者が駅に行った時、この二人が駅頭で会見してゐる光景にぶつかった〉


 ヒトラーの原則というのがあるそうで、それによると「大きな嘘をつき、しかも細部に具体的な事実を正確に挿入すると、百万人を欺くことができる」そうである。

そして日本語の場合は、このほかにさらに、主語・述語・目的語を一部か全部を巧みに省略し、さらにそこに「感激的美談」でも挿入すると、ほぼ完璧にそれができる。ただし外国語に訳すとばれる。

この記事はまさにその原則通りであって、距離とか地名とかを実に正確にした上で、目的語を省略している。この原則は、本多勝一記者の「殺人ゲーム」でも、実に、模範的に守られている。

私の中の日本軍《下》「捕虜・空閑少佐を自決させたもの」の章より引用】


次に紹介するのは、省略ではないですけど、伏字にすることで虚報であることを隠そうとした具体例ですね。

陸軍もお役所であり、典型的な官僚の世界であり、いたるところで「ハンコ」が必要で「日本軍はハンコがなければ戦争はできない」という冗談があったほどである。

また「部隊印」と「部隊長印」があり、これは今の社会で使われているあの四角い「社印」「社長印」とほぼ同じ形で、すべての書類にベタベタ押してあった。

部隊印の保管責任者は副官で、I副官は縞の布袋にこの二つの印を入れ、肌身離さずもっていた。
事実これは大切な印で、もし盗用・悪用されて、だれかに勝手に「作命」でも作られたら、その被害は到底「小切手印の盗用」の比ではあるまい。まず副官が切腹ものである。

百人斬り競争」の野田少尉の「○官」が「副官」だと知ったとき、この創作記事の悪質さを瞬間的に感じさせたのがこの「印」であった。

大隊命令に押す「印」は野田少尉が保管責任者のはずである。おそらく彼も肌身離さずもっていたであろう。

元来「部下の兵士」といえるものがないに等しい副官が、大隊長を放り出して、印をもったままただ一人であっちのトーチカに斬り込んだりこっちの無名部落に斬り込んだりしたら一体どうなることか!

もし野田少尉が一方的にホラを吹き、浅海特派員が無知からそれを信じたのなら、何も伏字にするわけはない。副官にはそういう「自由」はありえない!

――もちろん最下級の少尉には副官であろうとなかろうと「自由」などはないが、特に「嫁」で「印保管責任者」で、部隊長の身のまわりから、部隊内の「家政的雑務」までその責任である副官に、そんなことが出来るはずがない。そしてそのことを知っているがゆえに、これを隠した以外に伏字にした理由はありえない――

これを一瞬強く私に印象づけたのが、あの「印」であった。
「ハンコ行政」という言葉を転用すれば、日本軍とは一面「ハンコ軍制」なのである。

私の中の日本軍《下》「陸軍式順法闘争の被害者」の章より引用】

やはりこうしたポイントを押さえた上で、資料を読まないと簡単に騙されることになっちゃいますね。
どうも、こうした心構えを持たずに議論する人が多いのではないでしょうか。特に左翼の人々にそうした傾向が強い気がしてなりません。

今日はこの辺で紹介を終わります。
次回は、こうした虚報がもたらす害毒について紹介していく予定です。ではまた。


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コメント

kibinoさんへ

kibinoさん、初めまして。
コメントありがとうございます。

貴ブログ拝読いたしました。
山本七平氏の15年周期説の出典は、確か「常識の研究」に収められているコラム「社会意識の中年化」でしたよね。(本を探して確認しました。)

「子」の時代であるという貴方の見解はなかなか面白い見解だと思いました。

それはさておき、十二支の「子」にそのような意味があるとは知りませんでした。
教えていただきありがとうございました。

今後も拝見させていただきます。
宜しくどうぞ。

  • 2010/04/17(土) 13:40:45 |
  • URL |
  • 一知半解 #f2BEFQoE
  • [編集]

終わりと始まり

山本七平氏の15年周期説が気になり、下記のブログで考察しました。少年→青年→中年→老年ときて今の15年は何でしょうか?
 私は十二支の極である「子」の時代だと考えます。この字は終わりを表す「了」と始まりを表す「一」で出来ています。
 HPには哲学史の新解釈と新しい社会システムを提示しています。 

http://blogs.yahoo.co.jp/k_kibino/61221145.html

>なんか早速コメント欄で、そのものずばりの展開がされてますねー。

南京大虐殺とか従軍慰安婦を議論するとき、ついてまわる問題なので、しょうがないのですが…。
これは何も左翼だけでなく、ネットウヨの皆さんにも参考にして欲しいですね。

私自身、資料の見抜き方に絶対の自信があるわけでもないのですが、こうした山本七平の指摘は本当に参考になります。

  • 2008/06/21(土) 23:41:11 |
  • URL |
  • 一知半解男 #f2BEFQoE
  • [編集]

なんか早速コメント欄で、そのものずばりの展開がされてますねー。

  • 2008/06/20(金) 23:59:46 |
  • URL |
  • 仮)山田二郎 #-
  • [編集]

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隣国は血の気の多い国ばかりですねぇ。

中国や韓国、北朝鮮に加えてとうとう台湾もですか。 こうも武力を露骨にちらつかせるとはね。 それとも我々日本人が世界常識からずれてるのでしょうか。 弱い日本はいつも押されっぱなしですね。 もうそろそろ「過去」にとらわれっぱなしの弱い日本から脱皮しても良い...

  • 2008/06/19(木) 15:05:13 |
  • 一大学生が考える今日この頃
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「一知半解知らずに劣れり」な自分ではありますが、「物言わぬは腹ふくるるわざなり」…と、かの兼好法師も仰っておりますので、ワタクシもブログでコソーリとモノ申します。
一知半解なるがゆえに、自らの言葉で恥を晒すのを控え、主に山本七平の言葉を借用しつつ書き綴ってゆきたいと思ふのでアリマス。宜しくメカドック!!
日々のツイートを集めた別館「一知半解なれども一筆言上」~半可通のひとり言~↓もよろしゅう。

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