一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

「神話」が「事実」とされる背景

前回、虚報の見抜き方について、山本七平の記述を「私の中の日本軍」の中から紹介しました。
今回も、そのことに関して参考になりうるような記述を、山本七平の「ある異常体験者の偏見 (文春文庫)」からも紹介してみたいと思います。

まず、山本七平は、戦争の記録が次の4つ↓に分けることが出来ると分析しています。

鈴木明氏が『「南京大虐殺」のまぼろし』の中で、次のような事件を記しておられる。これはこの”まぼろし”の中で、確実に存在した事件の一つである。いわゆる”南京大虐殺”の記録は、私も『百人斬り競争』の分析に必要な部分を相当に徹底的に洗い切ったが、それらの記録は、明らかに次の四つにわかれる。

(1)多少の誤差はあっても確実に事実であるもの、

(2)伝聞と体験が混同しているもの、

(3)伝聞(戦場の伝聞は非常にあやしい)を事実の如くに記しているもの、

(4)政治的意図もしくは売名や自己顕示、また時流に媚びるための完全なデッチあげ


の四つであり、いずれ、それぞれの例をあげて分析してみたいが…(以下略)

ある異常体験者の偏見/アパリの地獄船の章より引用】


私もこれを読んで、何となくわかったのですが、山本七平には、出来たら「それぞれの具体例」を挙げて欲しかった…
特に(2)と(3)の違いが分かりにくく思えたので。
でも、証言には上記4つのタイプがあることを踏まえて、判断する必要があることはお認めいただけるでしょうか。

では次に、なぜ、一部の日本人に、「南京大虐殺」「従軍慰安婦」等、本当にあったか非常に疑わしい事件について事実だと認める、若しくは認めるどころか積極的に内外に宣伝するような輩がいるのか?
それについて、次の山本七平の分析がヒントになると思いますので紹介していきましょう。

グアム島でまた日本兵が現われたらしいという記事か新聞に出ていた。こういうニュースは何となく気になる。何気なく読んでいると「兵隊はみな天皇の声を知っているから、天皇の声を録音して放送したら出てくるであろう」という意味の横井*1さんの談話が出ていた。(註*1…横井庄一Wikipedia参照)

(~中略~)

いうまでもなくこの横井さんの談話は一種の「嘘」である。兵隊は天皇の声など知らない。戦後すでに三十年近くをすぎているから、「戦前そのもの」とは別の、戦後にそれを再構成した一種の「戦後神話」ともいうべきものが出来てしまっており、その「戦後神話」では「天皇の軍隊の兵隊は天皇の声を知っている」という言葉もしくは発想それ自体は必ずしも不自然ではないのかも知れぬ。

「戦後神話」しか知らず、「戦前」とは「戦後神話」だと思っている世代、「マック制*2」を「天皇制」だと思っている世代が、こういうことを言っても不思議ではないし、また戦前を体験している人々もいつしか「戦後神話」がしのびこんできており、この二つを自らの内に峻別することに、私自身が非常に神経質にならざるを得ないのが実情だから、戦後の日本に住みつづけた戦前の人が、そういうことを言っても、これまた必ずしも「嘘」とはいえない。(註*2…第二次大戦後のマッカーサーによる日本占領体制)

が、しかし、横井さんはそうではなく、それが「戦後に創作された神話」にすぎないことを、最も正確に知っているはずの人なのである。ちょっと考えると、そういう人はこの「神話」を否定しそうに思うが、面白いことにそうならず、そういう人がまっさきに、その神話を事実だと証言するのである。

(~中略~)

だが同時に「事実」を知っているはずのその人が、真先に神話を事実といえば、それは、一人間を「現人神」にするのも、「南京大虐殺」を事実にしてしまうのも、実に簡単なことであろう、そしてこれが日本を破滅させたのであろうとも思った。何しろ、それが事実でないことを確実に知っているその人が、真先に「事実だ」と証言するのだから、どうにもならない。

私は本多勝一氏にも横井さんと同じ面を感ずる。確かに「戦後神話」しか知らず、近代戦の実態を知らない人は『百人斬り競争』を事実だと本気で信ずるかもしれない。しかし氏は長年ヴェトナムの前戦で取材され、氏自らの言葉によればヴェトコンと「生死をともにした」はずなのである。

もし氏の言葉が嘘でないなら、戦後人には珍しく近代戦に参加し、その実態を本当に体験しているはずで、それならば「『百人斬り競争』などは事実ではない」と断言するはずなのである。ところがこの場合も、事実でないことを知っているはずのその人が、まずまっさきに「事実だ」と証言するのである。これもまた全くどうにもならない。

 なぜそうなるのであろうか。結局これはその時代の「神話」への「忠誠」を表明して身の安全を図り一億村の「村八分」いわば「億八分」にならないためそれが神話であって事実でないことを知っており、そう言明しそうだと当然に推定される位置にある者が、その「嫌疑」を払いのけるため、逆に自ら進んでその神話を事実だと証言する、ということなのかも知れない。

兵隊が「天皇の声」など聞いたことがないことは、だれよりも正確に横井さん自身が知っている。私自身は、最初に入隊したのが近衛師団で、昭和十八年一月八日の陸軍始観兵式に出場した一人だから、戦前に「天皇を見た」ことがあるかといわれれば、確かに「見た」。

しかしその声を間いたことはない。近衛の兵隊ですら、声は聞いたことがないのである。従ってこの時点では「兵隊はみんな天皇の声を知っている」などという人間はいない。いわば虚言症の患者である。ところがそれからわずか三十年足らずで、この言葉が新聞に出てもだれも違和感すら感じなくなってしまった。

取材した記者は戦後の人であろうから、その人の頭の中にはもう確固たる「戦後神話」がある。横井さんはそれにスッと自分を適合させてしまったわけであろう。とすると横井さんが語っているのは、記者の頭の中にある「神話」の代弁であっても「事実」ではない。

同時にこのことは、この「神話」がすでにすべての人にしみ通ってしまっていることを証明している。何百万という新聞の読者も、もちろんこれに少しも違和感を感じまい。

従って今ここで事実を言うと逆に人びとが「事実」の方に違和感を感じ、それに対して一種の拒否反応を起し、そしてその違和感を感じさせたものを排除してしまおうとする。だがそうなるとその者は「億八分」になりかねない。そこで「事実を知っているらしい」という「嫌疑」をうけたものが真先に「神話」を「事実」だということになるわけである。

そしてこの傾向は、激烈な生存競争で足のひっぱり合いをしている社会の一員とか、疎外され差別され蔑視されるという境遇のものほど、逆に、強く出てくる。

これは非常に悲しむべきことだが、私にとっては否定できない事実である。前述のように私は内村鑑三の弟子を両親としていたので、真先に「神話」を「事実」だと証言して「嫌疑」から逃れたいという誘惑が、どれほど強烈で、この誘惑への抵抗がどれほど苦しい戦いかよく知っている。――何しろ「一言ですむ」のだから。

そしてその一言さえ口にすれば、生存競争で脱落しないですむ場合があるのだから。従って私は横井さんに、同情こそすれ、非難などする気は毛頭ない。

さらに、こういう態度は、本多勝一氏の例を示すように、横井さんだけに特有のものでもない。各人の中に「横井さん」がおり、もちろん私の中にも「横井さん」がいる。従って、今ここで問題にしようと思うのは「横井さんその人」ではなく「われらのうちなる横井さん」である。

ある異常体験者の偏見/横井さんと戦後神話の章より引用】


とりあえず、神話を「事実」だという人間が現れる背景については、上記の山本七平の解説で何となくお分かりいただけるのではないでしょうか。もちろん、これだけでは山本七平の真意が伝わらないでしょうから、次回でこの続きを紹介していきたいと思います。


FC2ブログランキングにコソーリと参加中!

「ポチっとな」プリーズ!
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:歴史 - ジャンル:政治・経済

このページのトップへ

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://yamamoto8hei.blog37.fc2.com/tb.php/86-201d376a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
このページのトップへ

FC2Ad

プロフィール

一知半解

Author:一知半解
「一知半解知らずに劣れり」な自分ではありますが、「物言わぬは腹ふくるるわざなり」…と、かの兼好法師も仰っておりますので、ワタクシもブログでコソーリとモノ申します。
一知半解なるがゆえに、自らの言葉で恥を晒すのを控え、主に山本七平の言葉を借用しつつ書き綴ってゆきたいと思ふのでアリマス。宜しくメカドック!!
日々のツイートを集めた別館「一知半解なれども一筆言上」~半可通のひとり言~↓もよろしゅう。

http://yamamoto7hei.blog.fc2.com/

★★コメント欄運営方針★★
・基本的にどんなコメント(管理人批判も含め)でも一度は公開します。
・事前承認制ではありませんので、投稿するとすぐ表示されてしまいます。投稿前に、内容の再確認をお願いします。
・エロコメント及び勧誘サイトへ誘導するようなコメントは気付き次第、削除します。
・管理人宛てのコメントには、出来る限り対応していきたいと思います。ただ、あまりにも多連投コメント及び悪質・粘質なコメントは放置する場合があります。
・管理人はコメント欄の運営については自由放任という立場です。当面は、たとえ議論が荒れてしまっても不介入の方針でいきます。議論はとことんやっていただいてかまいませんが、できるだけ節度やマナーを保って議論していただきたいと”切に”希望します。
・本人よりコメント削除要求があり、管理人から見て、明らかに事実無根の中傷・名誉毀損と判断した場合は警告の上、当該コメントを削除することがあります。

FC2ブログランキングにコソーリ参加中
「ポチっとな!」please!

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

カレンダー

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

FC2カウンター

QRコード

QR

一知半解宛メール箱

私、一知半解まで個人的にメールを送りたい方はこちらのメールフォームをご利用ください。

名前:
メール:
件名:
本文:

バロメーター

Twitter on FC2

ブログ内検索

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する